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「困りましたね。まさか生徒が相手だなんて」
「な、何の話だ。昼間少し体調悪かったところを七海に見られただけだ」
「へえ、庇うんですね。あなたの性格上どうせ七海に迫られて困っていたのに、あの人懐っこい性格で情でも湧いたんでしょう」
なぜ分かる。
コイツの観察眼が卓越しているのか、それとも俺が分かりやすいのか。
尋問するように距離を詰められて思わず後ずさるが、背に壁が当たる。
「…っ勝手なことを言うな。なぜいきなりそんな話になる」
「なぜって、俺があなたを惑わせる相手を探していたのは知っているでしょう?本当に生徒が相手だとはいまいち信じられませんでしたが」
「あ、ありえないと前にも言っただろう。お前は俺の性格を分かっているんじゃないのか」
「もちろんです。ですから無理に迫られたと言っているでしょう。なぜ庇うんです?」
神谷はもう自分の考えを信じて疑わないとばかりに、どこか冷たい微笑を浮かべて俺に問いかける。
ゾクリと背筋が冷えた。
「…っだから違う。ヘタな考えでアイツの評価を落とすようなことをするなよ」
「俺は公私混同はしないと言ったでしょう。あなたがそんなに必死になるなんて本当に珍しいですね」
「必死になっているわけじゃ――」
不意に伸びてきた指先が首筋に触れる。
ハッとして息を詰めると、ゆるりとなぞられた。
「…この様子だとあのキスマークも七海ですか。あなたは真面目ですから、真剣に向き合って惑わされているんでしょう。少し冷静になってみて下さい」
冷静になれ、なんてそんなのは自分が一番分かっている。
どこまでコイツは俺のことが分かっているんだろう。
思わず視線を彷徨わせると、ゆるりとあやすような手付きで髪を撫でられた。
「…ずっと大切にしてきたんです。あなたのことをよくも知らない子供に好き勝手にされるのは許せません」
「神谷…」
「七海に迫られて困っているんでしょう?そうですよね、紺野先生」
同調を促すような強い視線が落ちてくる。
正直その通りだ。
俺が何度断ってもアイツは諦めないどころか所構わず人を犯してくる。
神谷の言う通り冷静になってみれば、どう考えても生徒などありえないし、高校生の子供の本気やら運命なんて言葉がいかに現実的でないものかも分かっている。
ああいう行為を俺以外にしてきた事も分かっているし、散々言った俺の言葉を聞き流せるのもそこまで深く考えていないからだ。
――だけど。
神谷が床に落としたタオルに視線を向ける。
本当に困っていて迷惑なだけだと言うには、俺はアイツと関わりすぎた。
「…七海はそういう奴じゃない。もういいだろう。触るな」
苛立つように俺に触れる手を払う。
立ち塞がる神谷を押しのけて逃げようとしたが、伸びてきた手が強引に俺の身体を引き寄せた。
「――なに」
全身を包み込む、力強い感触。
息が詰まって驚いたが、背中に回る手に神谷に抱きしめられている事を知る。
体格差もあってすっぽりと覆いかぶさられていた。
「は、離せっ――」
七海のこともあって何かされるんじゃないかと慌てる。
コイツにまで犯されたりしたら洒落にならない。
藻掻く俺を神谷は離さなかったが、どこか落ち着かせるように背を撫でられる。
「…俺があなたに同じことをしても嫌われることは分かっています。冷たく突き放される人達をたくさん見てきましたから。無理矢理あなたを傷つけるようなことはしないと言ったでしょう」
信じて下さい、とすぐ耳元で言われて、相手の息遣いにヒクリと身体を震わせる。
「ですがこのまま黙って見ていることも出来ません。今一度ご自分の立場をよく考えて下さい」
抱きしめられた胸の中で、トクトクと速い神谷の心臓の音を聞く。
コイツが本当に俺を思って言ってくれているんだということが、痛いほど伝わってくる。
俺のどこがいいのかは知らないが10年も想い続けるなんて普通は出来ない。
少なくとも俺の話を聞かず強引に手を出してくる七海よりは、きっと俺のことを思ってくれているんだろう。
何かされるのではないかと酷く身体を強張らせていたが、神谷がそれ以上を求めてくる事はなかった。
ただ優しく背を撫でられ、耳に温和な声音が落ちてくる。
「…俺は純粋にあなたが心配なんです。どうか分かって下さい」
コイツの弱いところなど今までに一度も見たことはなかったが、その声はまるで懇願するようだった。
頑なに拒んでいた心がどこか絆され、ほんの少しだけ身体の力を抜く。
「…分かった。お前の気持ちは分かったから――」
宥めるように大きなその背に触れると、神谷が息を詰めたのが分かった。
実際神谷の言っていることは間違っていなかった。
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