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神谷は本当にそれ以上のことはせず、俺を離すと一つ謝って見張りへ向かった。
仮眠を取ろうと思ったが今の出来事のせいで変にドクドクと緊張したままだった。
七海のせいで何かされるんじゃないかと人を疑いやすくなっているんだろうか。
当たり前だがいくら好きだからといって、普通は簡単に人を犯したりはしない。
一つ大きく息を吐き出して、神谷に落とされたタオルを拾い上げる。
酒が入っていたこともあり少し頭を冷やすかと、外の空気を吸ってくることにした。
就寝時間も迫り部屋確認中ということもあって、廊下に生徒の姿は見えなかった。
ラウンジを通り抜けテラスへでたが、昼よりはまだいいが相変わらず暑い。
だが通り抜ける風は気持ちよく、ふと見上げると思いのほか広がる星空が綺麗で驚いた。
都会ではなかなか見られない光景に息を呑んだが、不意に携帯が音を立ててハッと我に返る。
画面を見れば七海からだった。
内容を確認して、アイツらしい文面に力が抜ける。
「…何言ってんだコイツは」
メッセージの内容は短絡的で『超イイコト思いつきました☆』とどうせまたろくでもない事を言い出すんだろうという内容だった。
その文字に一度視線を落としてから、緩く首を振る。
コイツが何を言ったって、もう俺は流されたりはしない。
さっきの神谷の態度に驚きはしたが、アイツの言葉が俺を冷静にさせるには十分だった。
やはり七海に出会ってからの自分はあまりにもどうかしていた。
七海に返事をしたことは一度もないが、少し考えてから俺は初めての返信をした。
本題は直接会った時に話すとして、真面目な話があることと今日は部屋を抜け出さないようにということ、それからタオルは洗って返すことなど長文になってしまったが文面を考えて送った。
送信を押した2秒後、携帯が音を立てる。
どう考えても2秒で読める文面ではないし、なんなんだと眉を寄せて画面を確認する。
ドキリと心臓が跳ね上がった。
そこにはただ一言『好きです』と書かれていた。
妙に焦るような気持ちになって、サッと周りを確認する。
別に誰に見られているわけでもないし、見られていたっていい歳したオッサンがスマホを見ているだけの光景なのだが、なぜこんなに動揺した気持ちになる。
完全に携帯片手に挙動不審になっていたが、不意に電話がかかってきた。
慌てて落としそうになったがなんとか電話に出る。
「もっ…もしも――」
『みーちゃん、見ましたっ。星チョー綺麗ですねっ』
電話に出る時のお決まりの台詞すら言わせてもらえないまま、開口一番に勢いよく七海の声が耳に届く。
一瞬呆気にとられてしまったが、ハッとして俺は口を開いた。
「ほ、本題はそこじゃない。お前ちゃんと全部読んだのか」
『なんかめっちゃ長かったんでとりあえず最後の一文だけ読みました。寝る前に空見てみろって書いてありましたよね』
「確かに書いたが本題はそこじゃなくて…」
なかなか見れない星空だし修学旅行の夜も最終日ということで教えてやったが、まさかそこだけをメインに読まれるとは思ってもいなかった。
内容も読まずにいきなり電話を掛けてくるとはやはり俺とは思考が違う。
ふと電話の奥でみーちゃんって誰だよと騒ぐクラスメイトの声が聞こえて、七海が楽しそうになにか対応している。
「…あ、おいっ。何かバレるような事は言うなよ」
『ん?なんすか、聞こえないっす。ちょっと待ってください』
同室の生徒が騒いでいるのか、聞き取りづらい。
少ししてから「もしもーし」とまた呑気な七海の声が聞こえた。
周りが静かになったところをみると場所を変えたんだろう。
いやちょっと待て。
「おい、静かになったがお前今どこにいる」
『えっ?廊下に出ましたよ。部屋ん中うるさいんで』
「就寝時間過ぎただろう。神谷は何している」
『さっき部屋来たんで今他の部屋確認行ってるんじゃないっすか?』
なんてことだ。
まさかこのタイミングで抜け出す奴がいるとか。
というか俺が抜け出しを助長させてしまったのか。
「今すぐ部屋に戻れ。神谷に見つかったら何を言われるか分からない」
『電話してるから大丈夫でしょ。終わったら戻るって言えば』
「そういう問題じゃ――」
『それよりみーちゃん、俺の考え聞いてくださいよ』
気付けばまた七海のペースになっている。
ダメだ。俺はもう流されないと決めたんだ。
「どうせまたくだらない事だろう。いいから部屋に戻れ」
『ええ、全然くだらなくないっすよ。…ってあれ、みーちゃんもしかして今外にいます?』
「は?テラスにいるが。それより早く部屋に――」
『了解ですっ。会いたいんで今から行きますね』
「えっ」
そのまま電話が切れた。
切れてるのだから当たり前だが、呼びかけても応答しない電話に頭を抱える。
なんなんだアイツは。
なぜ俺の言うことを聞いてくれない。
同じ『好き』でも俺を気遣い困らせたくないという神谷とは大違いだ。
七海は俺を『好き』と言いながら人を困らせることしかしない。
これが大人と子供の差なのか。
それとも気持ちの大きさの問題か。
心地良い風が吹き抜け満天の星空広がる修学旅行最後の夜。
睡眠不足のせいなのか悩みのせいなのか酒のせいなのか、頭痛がする額を抑えてベンチに腰掛ける。
七海が来たところで言う言葉なんて最初からずっと決まっている。
それでも俺は教師で、何度だって言わなければいけない言葉を心の中で反芻させていた。
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