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----side 七海『修学旅行を終えて』
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「なーなーみ先輩っ、修学旅行のお土産ないんすかぁ」
「そーいう役回りは俺じゃなくてキャプテンっしょ。キャプテーンお土産はー?」
目の前にいたキャプテンの首に手を回して、ついでに脇腹をくすぐってみる。
さらについでにシャツの上からキュッと乳首を摘んでみたら、ヒャッと高い声をあげてワイルドなゴリラ顔が赤く染まった。
どうやらゴリ…じゃなかったキャプテンは乳首が弱いらしい。
「あれ、感じた?」
「な…ななな七海っ、だからお前真面目にやれって言ってんだろっ。土産は部室に置いてあるからっ」
「だって。良かったな」
「わーいっ。七海先輩大好きっす」
最近ちょっとした理由で仲良くなった一年の新入部員。
ガバッと軽い身体に抱きつかれて、なんの衝撃も受けずにポンと明るい髪に手を置く。
修学旅行が終わって一日の休みを挟んだ次の日の朝練。
まだ旅行気分はなんとなく抜けてないけど、こうやって学校が始まると戻ってきたなーなんて実感してくる。
「…おい、なんで七海なんだ。買ってきたのは俺なんだが」
「わーっ、キャプテンもありがとうございますっ」
ゴリラに捕まった子猫みたいな勢いで、首根っこ掴まれてキャプテンに引き剥がされていった。
バスケ部の新入部員は結構いて俺は気にせず後輩にも話しかけるけど、まだ一年ということもあってこうやって仲良く話せる子はあまりいない。
去年までは俺も後輩で、エースだった先輩に憧れてめっちゃ話しかけてたなー、なんて思い出してしまう。
「七海先輩っ、スリーポイントのコツ教えてくださいよっ」
「コラ。一年は一年の練習メニューがあるんだよ。全く七海が甘やかすから一年がナメた口利いてるだろうが。お前はエースなんだからもっと自覚を持って…」
「よーし、俺が必殺技教えてやるよ。まずボールを二個用意すんだろ」
「はいっ、七海先輩っ」
「二個ボール使う時点でルール違反だろうがっ」
ちょっとした遊び心で開発した技を披露してやろうと思ったのに、俺までキャプテンに首根っこ掴まれた。
でもそれは一瞬で、何か慌てたようにキャプテンが俺を離す。
「お、おい七海っ。お前何かしたのか」
「え?何かって身に覚えがありすぎて分からな…っていきなり何の話?」
「一体お前は裏で何してるんだ。――じゃなくてっ」
青い顔したキャプテンが指し示した方向を見てみると、思いっきり体育館の入り口で睨みをきかせてるみーちゃんを発見した。
今日も安定の誰が見ても機嫌悪そうにイライラした顔で、めちゃくちゃ可愛い。
ぶわっと一気にテンションが上がって、ダッシュで体育館の入り口まで飛んでいく。
「どーしたんすかっ。もしかして練習見に来てくれたんすか」
嬉しくて犯したくなる気持ちを抑えつつ興奮気味に言ったら、眼鏡をクイと押し上げてみーちゃんは体育館内を覗いた。
「神谷はどうした」
「親善試合がどうのって職員室に電話しにいきましたけど。俺に用事じゃないんすか?」
「そうだ」
「なんすか?」
聞いたら、何か言いづらそうな顔をした後ぐいっと腕を引っ張られる。
みーちゃんに連れ出されるならいつでもどこでも大歓迎、と思ったけど入り口を出たらあっさりと手が離された。
部員から見えないところで、グイと胸に紙袋を突きつけられる。
「えっ、なんすか」
「…お前に借りてただろう」
「んー?」
「ほら、タオルだ。修学旅行の時に俺に掛けただろう」
言われてみれば体調悪そうだったみーちゃんに貸したかもしれない。
人のことは覚えてるけど自分の行動ってあんまり覚えてないんだよな。
「あー、はいはい。って別にそんなの返さなくても良かったですけど」
「そういうわけにはいかない。ちゃんと洗濯もしてある」
修学旅行が終わってまだ学校始まったばっかの一日目の朝なのに、相変わらず真面目さんだなーと思いながら紙袋を受け取る。
ズシッと重かった。
どう考えてもこれはタオルだけの重さじゃない。
気になって中を覗き込んで、そこに入っていたものにハッと目を奪われる。
「――これ、お弁当」
「…あ、いやその…飲み物も俺に買ってくれただろう。それに最終日の夜寝てしまって迷惑も掛けたし…」
たぶんこんな事をきっとする人じゃなくて、めちゃくちゃ言いづらそうに視線がウロウロしている。
「お、お前はいつも購買で買った物ばかり食べているし、成長期の若者が毎日食べるものとしては健康的にあまり良くないと判断して弁当を作った。きょ、今日だけだからな。あー…じゃなくてえっと礼のつもりで、その…」
やばい。めちゃくちゃ心臓がドキドキする。
みーちゃんはいつになく歯切れの悪い言い方で、その珍しい姿に言葉も忘れてじっとその顔を見つめてしまう。
「……い、色々ありがとう」
最後はもう消え入りそうなほど小さな声だったけど、俺の耳にはバッチリ聞こえた。
差し入れもお弁当も貰うのは勿論初めてじゃないけど、それでも今までの誰よりも間違いなく一番嬉しい。
興奮した気持ちが抑えきれなくて、勢いのまま口を開く。
「ね、みーちゃん。やっぱり一緒にお昼ご飯食べましょう。俺絶対一緒に食べたいです」
「…いやそれは――」
「昼休みにちゃんと勉強も頑張りますから。毎日教えてください。交換条件でもなんでもいいですからっ」
ここ最近昼休みに数学準備室にみーちゃんがいないのは、きっと俺を諦めさせようとしているからだって事はちゃんと分かってる。
でもこんな風に優しさを見せられると、好きになってくれるんじゃないかって期待してしまう。
絶対に俺を好きになってほしい。
めちゃくちゃ断られまくってるけど、絶対にこの人を離したくない。
いつだって鋭く光る眼鏡がどこか弱々しくぼやけて、眼鏡の奥の瞳が困ったように俺を見つめる。
慣れない事をしたせいなのかほんの少し赤くなった顔に思わず手を伸ばしたくなるけど、今は絶対に怒られるからぐっと我慢する。
めちゃくちゃ耐えた気がする時間の後、みーちゃんはぽつりと口を開いた。
「…わ、分かった」
思わず「よっしゃ!」と声を出してガッツポーズしてしまった。
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