アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
70
-
テスト返しが終わり説明会も終わればあとは夏休みだ。
授業時間も午前のみとなり、七海とわざわざ昼飯を食う事もなくなる。
「で、ご褒美下さいよっ。数学今まで赤点でしたけど今回は免れましたよっ」
「せめて平均点とってからその言葉を使え。だいたいお前と約束した覚えはない」
「えぇー。眼鏡センセー約束違うじゃないっすかぁ」
唇を尖らせる結城は、わざわざ放課後に答案用紙を持って職員室までやってきた。
赤点毎回取っていたことも問題だが、なぜそのぎりぎりの点数で褒美が貰えると思った。
「第一協力しろと言うが何をすればいいのかなんて分からない。俺はそういうのに向いてない」
「やだなー眼鏡センセー。恋愛に向き不向きなんてありませんよ。同じように恋愛対象に大人も子供もありません。つまり教師も生徒も男も女も関係ないんですっ」
「関係あるに決っているだろう。さすがに倫理を無視するわけにはいかない」
「なに小難しいこと言ってるんすかぁ。そんなんだから七海先輩の元カレが登場して焦るんですよ」
「――は?」
目を見開くと結城はフフンと鼻を鳴らした。
「うちの兄貴が説明会に友人二人が行くんだって言ってたんですよね。七海先輩とも仲良いって聞いて。真島先輩ちょーぜつイケメンだから会いたかったなぁ」
なんか一人で盛り上がっているが、やはり高瀬は七海の元恋人だったのか。
俺の考えだけではなく第三者がそういうならきっと間違いないのだろう。
「あっ、今のテキトーなんでそんな単純にショック受けないで下さい。ほら、やっぱり七海先輩のこと好きなんじゃないですかっ」
このクソガキ。
ぴょこぴょこと揺れる金髪にビキッと青筋が立つ。
教師に舐めた態度を取るなと叱ってやろうかと思ったが、それはせず大きくため息を吐いた。
「…もう戻れ。お前と話していると疲れる」
そもそも人を職員室から呼び出しておいて、そんな話か。
本気で時間を無駄にした。
「疲れないで下さいよっ。でも七海先輩の引退試合はさすがに来ますよね?」
戻れとあしらっているのに全く効いていない。
コイツには七海とのやり取りを知られているのもあって、おそらく完全に威厳がなくなっているのだろう。
結城の言葉に黙っていたら、驚いたように瞬きされる。
「えっ、マジですか。まさか行かないとか言わないですよね?」
「…お前には関係ないだろう。いいから戻れ」
「ええー」
ブーブー言っている結城を今度こそ追い払う。
職員室へ戻りもう一度ため息を吐くと、溜まりきった仕事に手をつける。
が、気付いたら手が止まっていて、ぼーっと物思いに耽っていた。
頭を振って再び仕事に入る。
だが気付いたらまた手が止まっていて、そんな自分の行動に何よりも自分が一番驚く。
ありえない。
こんなのは俺じゃない。
ふと携帯が視界に入る。
ブーッと振動して、通知が届く。
またアイツか。
もうずっと返していないメッセージが溜まっている。
おそらく引退試合に来るか来ないかを聞きたいんだろうが、返事をしていなかった。
そもそもバスケ部の顧問でもない俺が行くことは明らかにおかしい。
いくら副担任だとはいえ、一生徒のためだけに部活動をわざわざ見に行ったりはしないだろう。
それでも高瀬が七海に引退試合の話をした時に、なぜ俺に言わないんだと思ってしまったのは事実だ。
神谷にも落ち込んでいると言われたし、七海に引退試合に来てほしいと言われた時には不思議と機嫌も治った。
結城の発言には簡単に振り回され、挙句の果てに俺が七海を好きだと言う。
仕事も手に付かない。
気付けば同じようなことをぐるぐると繰り返し考えている。
アイツのことがずっと頭から離れない。
こんなどうしようもない自分になるなんて思わなかった。
こんなこと、俺は一つだって望んではいなかった。
その日の夜、俺は七海に返事を返した。
引退試合を見には行かないと言った。
試合前に生徒のやる気を削ぐような事を言っていいのかと迷ったが、このまま返事をしないよりはいいだろう。
どうせ反論してくるだろうからもう携帯を見るのはやめた。
やりかけの数学の研究は中途半端に止まっていたが、今は何も頭に入ってこなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
75 / 209