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----side七海 『二人のライバル』
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「お前何しに来た」
ミーンと蝉が鳴く夏休み。
部活の引退試合も終わって、受験シーズン突入だけどそれだけで夏休みを終わらせる気はない。
もちろん夏期講習だけじゃなくちゃんと勉強もする。
みーちゃんも夏休みはかなり大事だって言ってたし。
勉強はやるとして、後は好きな人と充実出来たら最高なんだけど。
「えっ?合宿ですよ合宿。ベンキョー合宿」
「そんなものを開催した覚えはない」
「まあまあ」
みーちゃんの家に初めて遊びにきたその次の日。
俺はスポーツバックに荷物を詰めてから、さっそくみーちゃんちに突撃することにした。
夏なのに全く焼けてない色白美人さんは、どこか口調は厳しいけど絶対ダメだって顔はしてない。
これは押せばいけるほうの顔だ。
両手を合わせて「ね?」と上目使いでお願いしてみたら、真っ赤な顔で「勝手にしろ」と言ってくれた。やった。
「ただしちゃんと計画を立てて勉強すること。無駄に時間を使うな。それから俺に変なことをしないのが条件だ」
「もちろん勉強しますよ。俺も今めっちゃやる気あるんで」
「そうか。やる気があるのはいいことだ」
そう言ってニコニコと笑顔を見せてくれる。
最近は本当にたくさん笑ってくれるようになって、そんな顔されたらつい触りたくなってしまう。
思わず引き寄せて頬にキスをしたら、慌てたように赤い顔で引き剥がされた。
「おいコラ。変なことをしないという条件はどうした」
「え、そっち飲んでないですけど」
「なら帰れっ」
そう言われてももう止まれない。
「七海」
夏期講習を終えて帰ろうとしたら、カミヤンに廊下で呼び止められた。
何かと思えばその後の部活の大会結果で、なんとか苦戦しながら勝ち進んでるって話だった。
一足早く引退したから結果が気になってたんだよな。
「ああ、それとお前教師になりたいなら進学は理数科じゃなくて教育学部のほうがいいんじゃないのか」
「んー、それなんですけど」
カミヤンと進路の話をしていたら、みーちゃんが渡り廊下を歩いてるのが見えた。
ハッとして窓に飛びついて、ブンブンと手を振る。
俺の姿に気付いたのか、みーちゃんはギクッとした顔をしてから眼鏡を引き上げて足早に歩いていってしまった。
遠くで廊下を走るなと生徒を怒鳴る声が聞こえる。
「はー、今日も可愛いっすよね」
「そうだな」
いつの間にか一緒になって隣で見ていたカミヤンをジロリと見上げる。
「やっぱカミヤンもみーちゃんのこと好きなんじゃないっすかっ」
「なっ…、それよりその呼び方はなんだ。教師に対して名前で呼ぶなど羨ま…失礼だろう」
「別にカミヤンだってみんなあだ名で呼んでるじゃないっすか」
「俺はいいがそんな呼び方紺野先生が許すわけ…いや、お前は別だったな」
どこか声色を変えたカミヤンがため息を吐く。
俺を見下ろす視線がいつもの優しい視線より、少し鋭くなった気がした。
「…あまりあの人に心労を掛けるな。お前が思っているよりずっと繊細な人だ」
「そんなこと言ってたら一生見て貰えないんですよ。…俺だって自分の立場くらい分かってる」
俺はカミヤンと違って大人でもなければ、みーちゃんに見合うだけの知識も持ってない。
そしてそれを今すぐどうにかするのは無理だ。
だけど今遠慮してみーちゃんを追いかけることを諦めてしまったら、きっとこの先も手に入れることなんて出来ない。
それに好きな人を目の前に大人しくしてるなんて、俺には絶対無理だ。
「もう少し周りに目を向けてみろ。お前なら同年代の可愛い女子がたくさんいるだろう」
「カミヤンこそもっと周りに目を向けてみたらどーっすか」
例えばあーちゃんとか、あーちゃんとか他にもあーちゃんとか。
じとっとお互い見つめ合う。
「…ともかくあまり行き過ぎた行動は教師として許さない。自分の考えばかり押し付けるのは子供がやることだ。学生としての自覚を持ちなさい」
「カミヤンまでみーちゃんみたいなこと言わないで下さいよ」
そう言ったらカミヤンは目を丸くさせてから、ふふ、と嬉しそうに笑った。
なんかムカつく。
俺の表情を見て取ったのか、カミヤンはフフンと上機嫌に鼻を鳴らした。
「それに俺は自分で呼んでおいて主人に気付かないような馬鹿犬は認められないな」
なんだそれ。
カミヤンの言っている意味が分からなかったけど、一拍遅れてハッと気付く。
「…えっ、もしかしてみーちゃん引退試合見に来てくれてたんすか」
「さあな」
カミヤンは明らかに勝ち誇った顔を俺にしてから、職員室へと戻っていった。
みーちゃんが引退試合見に来てくれてたなんて、全然気付かなかった。
物凄く嬉しい気持ちと同時に、気付かなかった自分にめちゃくちゃ腹が立つ。
昨日みーちゃんの書斎で真島先輩に負けた気がしたことだってすげー悔しいのに、今日はカミヤンに負けた気がした。
俺があの人を手に入れるためにやらなければならないことは、またまだいっぱいだ。
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