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「おー、ハンバーグ!」
食卓に並べた夕飯に七海が目を輝かせる。
子供が好きそうなものをチョイスしたが、落ち込んでいたのが嘘のように今は機嫌を取り戻している。
前の席に座り嬉しそうに食べている姿に自然と心が緩む。
弁当といい本当にいつも喜んで食べてくれる。
七海の表情を見る度に今までに知らなかった感情をどんどん覚えていってしまう。
だがそれと同時に、生徒とこんな関係を築いてしまっていることに酷い罪悪感も抱いてしまう。
「お前夕飯はいつもどうしているんだ」
「え?フツーに食ってますよ」
そんな焦らずとも飯は逃げないが、高校生らしくガツガツと掻き込む姿を眺める。
質問の意味はそうじゃないんだが。
「…あー、この間基本家に誰もいないと言っていただろう」
「ああ、いつも友達と食ったり買ってきたりですかねー。部活あった時は差し入れ貰ったりとか…あっ、でも今は貰ってないっすよ。みーちゃんが妬いてくれたんでちゃんと断ってますっ」
そう言ってご飯粒を付けながらニッと笑顔を向けられる。
いつだったか七海は差し入れを助かると言っていて、俺はそれを咎めた。
あの時は付き合う気がないのにちゃっかり差し入れは貰うなんて、と思ってしまったが、コイツの境遇を考えれば下心ではなく本当に助かっていたのかもしれない。
俺は事情も知らずに余計なことを言ってしまっていたのか。
「あれ、否定しないんすか?」
俺の様子に七海は不思議そうに首を傾ける。
認めているわけではないが否定する気も起きず、さっと視線を逸らす。
「じ、自分で料理はしないのか」
「しませんねー。料理とかめんどいっす」
まあ高校生男子じゃ当たり前か。
この口ぶりだと本当に家ではいつも一人なんだろう。
考えてみればいつも昼飯は購買だし、家庭に女手がなければそうなってしまうのも仕方ないのかもしれない。
「誰もいないとはどの程度の事を言っているんだ。もしかして――」
「ふ、いきなりどうしたんすか」
七海は不意に俺の質問を遮ると、くしゃりと笑顔を向ける。
「みーちゃんがこんなに俺に質問してくるなんて珍しいっすね」
「少し気になっただけだ」
「そんなに俺のことが知りたいですか?」
どこか茶化すような視線を向けられて、いつもと同じふざけた態度にカッと体温が上がる。
「ちょ、調子に乗るなっ」
「はは、相変わらずツン眼鏡さんっすね。ごちそーさまでした。あ、そうそう聞いてくださいよ。そういえば今日キャプテンに会って――」
七海はそう言って別の会話をしながら食器を重ねて立ち上がる。
もしかして俺は今うまく会話を逸らされたんだろうか。
だが自分から突き放した手前、もう一度聞き返すのもおかしい。
洗い物を七海に任せて持ち帰ってきた仕事に取り掛かる。
カチャカチャと遠くで聞こえる忙しない音に、そろそろ皿の一枚や二枚割るんじゃないかと危惧してしまう。
どうにも集中出来ず、くるりとボールペンを回しながら先ほどの会話を思い出す。
よく考えてみれば七海の行動は多々おかしいところがある。
人を問答無用で犯すところはもちろんだが、あの歳であれだけ手慣れるということはそれだけ出歩いているということだ。
時間を気にされたことがないという事は、例えば夜遊び一つにしても咎められた事がないんだろう。
そういえば弁当や夕飯の飯代も毎回渡そうとしてくるが、額がいつも大きい。
当然生徒からの金なんて受け取らないし、社会人である俺から見れば七海一人の飯代なんてたいしたものじゃない。
だが高校生にしては持ち合わせている額が多いような気がする。
「教師って家帰っても仕事してるんすね」
「わっ」
考えていたら不意に後ろから声を掛けられてドキリとする。
心臓に悪い。
が、ふと鞄を肩に掛けていることに気付く。
「…帰るのか?」
「はい。本当はお泊まりしたいんですけど今日用事あるんで」
「これからか?」
コイツ条例のこと忘れてるんじゃないだろうな。
俺の考えが顔に出ていたのか、眉間をくに、と人差し指で押された。
「大丈夫ですっ。みーちゃんが心配するようなことはないっすよ。俺一途ですし」
「なんだそれは。なんの心配だ」
「えっ、浮気じゃないんですか」
「馬鹿な事を言うなっ。お前と俺は――」
もう何度も言っている言葉を口に出そうとしたら、顎をすくい取られて唇を奪われた。
押し付けるように触れるだけの口付けをしてから、近い位置で顔を覗き込まれる。
ぶわっと体温が一気に上昇してしまう。
七海は俺の表情にどこか満足そうに微笑んだ。
「また夏期講習で。ご飯美味しかったです」
そう言って帰っていった。
反論する言葉も考え事も一気にどこかへ吹き飛んで、しばらくその場で固まってしまった。
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