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「…あれ、みーちゃん?」
呆然と花火を見上げる。
どうして七海はこう人をドキドキさせるようなことばかり言うんだろう。
真っ直ぐすぎる愛情を受け止めきれない。
隣に視線などもう向けることが出来ず、花火を見上げたまま硬直してしまう。
七海は何も言わず固まったままの俺を一度瞬きして見つめたが、やがてクスリと笑顔を溢した。
「真っ赤です。俺の事好きですか?」
ドクンと一際大きく心臓が跳ね上がる。
――好きだ。
七海が好きだ。
余計なことを考える間もなく、ストンと気持ちが落ちてきてしまう。
神谷の前で一度口に出して認めてしまった言葉は、思えば思うほど酷く甘ったるい痺れとなって身体中を駆け巡る。
それでもこの言葉を七海に伝えるのがよくないことは分かっている。
不安と罪悪感がついて回る関係を、やはりまだ認めることは出来ない。
押し黙ってしまった俺を、七海は困ったように見下ろして首を擦った。
「あーくそ、今度こそ流れでいけると思ったのに。そんな顔してまだ認めてくれないんすか」
「…っな、流れってなんだ。だからお前は軽いって…」
「超絶重いっす。本当に意地っ張りさんですね」
七海はそう言っていつも通りの笑顔を作ったが、どこかその瞳は淋しげだった。
これを見間違いだと思ってはいけない。
七海は笑顔を無理に作ることが出来る奴なんだ。
再び花火へと向けられた視線に、胸中がモヤモヤとしてしまう。
七海が俺の言葉を欲しがっているのは分かっている。
この間から七海は俺のちゃんとした言葉を聞きたがっていた。
だけどそれを伝えていいのか自信がない。
この関係性を今すぐ認められるほど、俺は適当に生きていく術を知らない。
どうしたら七海を少しでも安心させてやれるだろう。
ここ最近の七海の様子がおかしかったのは、きっと家庭の事情だけじゃない。
俺の態度も原因なのは分かっている。
だけど俺には気の利いた言葉を掛けてやれる程の心の余裕なんてない。
隣にいる体温を意識してしまって、ただそれだけで緊張していっぱいいっぱいだ。
好きだと口に出して言う勇気は、とてもじゃないがまだ持てそうにない。
だから、そっと手を伸ばす。
「――えっ」
俺の行動に驚いたように七海が声をあげる。
どんな顔をしているのか分からないが、やはり七海の方を向くことは出来なかった。
それでもジリジリと食い入るような視線を横から感じて、慌てて口を開く。
「こ、こっちを見るな。花火を見に来たんだろう」
「もう花火は飽きました。みーちゃんのほうが断然見ていたいです」
「あ、飽きたとか言うなっ。いいから花火を見ろっ」
なんだか修学旅行のときもこんな事があったような。
ともかく必死にそう言うと、七海はまだたくさん言いたいことがあるみたいだったが大人しく花火へと視線を上げた。
心臓が壊れそうなほどバクバクしている。
「…お、俺はお前みたいにいきなり人を襲うような付き合い方は、お、おかしいと思っている」
「だってあーでもしないとみーちゃん一生俺の事見てくれないですし――」
「ふ、普通は合意のもとするんだ。その考えは間違っている。し、知らなかったのなら今知れ」
「なんすか?いきなり」
ふふっと楽しげに七海が笑う。
コイツの複雑な家庭事情が何かはまだ分からないが、あまり親に目をかけてもらってはこなかったんだろう。
大事なことを知らないのなら、俺が代わりに説教をしてやる。
こんなこと自分でもしたことがないから緊張して酷く声が上擦ってしまうが、ともかく今は必死だ。
「だ、だから。ふ、普通はこれくらいが当たり前なんだ」
「んー?これくらいってなんですか?」
「だ、だから…っ。こ、ここから始めようと言っているんだっ」
俺の言葉に七海が大きく目を見開く。
興奮したまま勢いよく隣の顔を見上げてしまって、ばちりと合った視線に頭が真っ白になる。
だがどこか余裕そうだった七海の表情も、熱を持って色を変えていくのが分かった。
初めて俺から伸ばして繋いだ手は、しっかりと力強く七海に握りしめられていた。
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