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頭がぼーっとしているうちにまた手を取られて、次の場所へ連れて行かれる。
告白しようと思っていたのに逆にされてしまった。
どうして七海はそう簡単に言えるんだろう。
俺の気持ちと七海の気持ちでは差があるんだろうか。
それとも慣れの問題なんだろうか。
もしも七海が軽いノリで言っているなら、真面目に告白などしたら引かれるのではないか。
いやいや、七海の気持ちを信じると俺は決めたはずだ。
今更何を弱気になっている。
「みーちゃん」
「――えっ?」
気付けば七海に顔を覗き込まれていた。
いけない、また俺は七海の話を聞いていなかった。
「やっぱりなんか悩んでます?今日よく上の空になりますよね」
「あ、いや。違うんだ。そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて、なんですか?」
まさか告白を意識しすぎて緊張しているなんて言えない。
七海は簡単に言ってみせるのに、一回りも上の俺が馬鹿みたいに言い悩んでいるなんて情けない話だ。
「本当に何もないんだ。心配掛けてすまない」
「…わかりました。でも危ないんでシートベルトはちゃんとしてくださいね」
「えっ?」
流れで七海の隣に腰掛けていたが、なんだこの乗り物は。
アトラクションの一つなんだろうが、レールの上に二人ずつ座る列車が縦に並んでいる。
言われるままにベルトを締めたら発射する。
目の前に真っ青な空が見えた。
直後、カタカタとゆっくり上へ上昇していく。
まさかこれは。
「――お、おいっ」
慌てて七海を見ると、ニッコリした笑顔が返ってくる。
笑っている場合か。
「あれ?みーちゃん平気な顔して入って行くから全然怖く無いのかと思ってました」
「か、考え事していて気付かなかったっ。どうしてこんなに高く上がる必要があるっ」
「どうしてってそりゃジェットコースターですから。ってやっぱ考え事してたんじゃないですかっ」
そんな話をしている間にも地上はどんどん離れていき、予想外の高さへと上がっていく。
地上から見上げた時はそんなに高くないと思っていたから、どうせ子供の遊びでたかが知れているだろうと思っていた。
が、どう見てもこれは異常な高さだ。
遠くの山までくっきりと見える。
「む、無理だっ。お、降ろせっ」
「もう遅いですって。怖いなら手繋ぎますか?」
「つ、繋ぐっ」
慌てて差し出された七海の手をギュッと握る。
――直後、物凄い速さで地面へと乗り物が急降下していった。
それと同時に、俺は生涯この乗り物にだけはもう絶対に乗らないと心に誓った。
ふらりとジェットコースターの出口から外へ出る。
地に足がついていることがこんなに喜ばしいと思ったことはない。
戦場から奇跡の生還を遂げたような気持ちでいる俺を他所に、七海は隣で腹を抱えて爆笑している。
思わずギロリと睨んだ。
「――っくく、すいません。だってみーちゃん絶叫するのかと思ったら絶句したまま目見開いてずっと固まってるんですもん。ちょっと思い出しても…っ」
「う、うるさいっ。なんだあの乗り物は。子供どころか大人が乗るのも危険すぎるだろう」
「ちゃんと安全性考えてるんでだいじょーぶですって。しかも降りたら速攻で係員にガン飛ばしてるし…っ」
言いながらまだ笑っている。
今日は七海に付き合ってやるつもりでいたが、あんなに怖いものに乗せられるとは思わなかった。
考えていたことも全てすっ飛んでいくほど衝撃的だった。
「次アレいきましょーよ。もう勢いで行ったほうがいいですって」
そう言われて指さされたのは船の形をしたもので、どうやら左右に揺れているだけの乗り物のようだ。
それなら何も問題はないだろうと七海についていく。
が、その数十分後。
二度とあの船には乗らないと俺は心に決めていた。
外から見れば揺れているだけに見えたそれは、乗ってみれば物凄い勢いで上昇したり降下したりと一度ならず何度も人を苦しめる。
もう降ろして欲しいと半泣きになりかけた頃、ようやく解放された。
またしても隣で爆笑している七海をじろりと睨む。
なぜコイツは怖がらないんだ。
「みーちゃん、みーちゃん。ほら、あのブランコなら怖くないですよ」
そう言われて視線を向ければ、ぐるぐると回るブランコが複数ついている乗り物があった。
確かにブランコ程度なら怖くないかもしれない。
が、その数十分後またしても俺は後悔することになる。
しかも今度は空中に投げ出されるかと思うような遠心力で、腰が抜けるかと思った。
何よりブランコは一人用で、七海も乗っているのかと思いきやいつの間にかアイツは列から外れて柵の外から俺に携帯をかざしていた。
アイツめ。絶対に許さん。
「おいっ、なぜお前も乗らないっ」
「いやもーみーちゃんが真顔でブランコに乗る図が微笑ましすぎて、カミヤンに動画送って自慢しよーかなって」
「ぜ、絶対送るなっ」
言いながら七海の携帯を取り上げようと手を伸ばすと、七海は笑いながら頭上へと持ち上げる。
そうなれば当然身長差もあって届かない。
しばらくやり取りをしていたが、不意に七海の手が腰に回る。
グイと引き寄せられたかと思えば、耳にちゅ、とリップ音を立ててキスされた。
ぶわっと体温が上昇して慌てて離れる。
「ゆ、油断も隙きもない…っ」
「すいません。あんまり近い位置だったんでついムラムラしちゃって」
そう言って七海は何でもないように笑う。
こんなこと俺には到底出来ないのに、やはりコイツは簡単にやってのける。
熱くなる頬を誤魔化すように視線を逸らした。
「も、もう怖いのには乗らないからな。俺には無理だっ」
「みーちゃんお化け屋敷は得意なのに絶叫系は苦手なんですね。俺真顔で驚く人始めてみました」
「う、うるさいっ」
自分でも情けないとは思っているが、怖いものは怖いのだから仕方ない。
七海は俺の言葉に少しも気分を害していないようで、変わらずいっぱいの笑顔で再び俺の手を取る。
「じゃあもうすぐパレードなんでそれまで少し休憩しましょうか」
「パ、パレードは怖くないんだろうな」
「ふ、怖くないですよ。見て楽しめるものなんで、ゆっくりアイスでも食べながら見ましょーね」
「…分かった」
どこか機嫌を取るような口調に心が絆される。
コイツ甘い物を俺に与えれば機嫌が取れるとでも思っているな。
とは思いつつも大人しく七海についていき、適当なベンチを見つけると二人で腰掛ける。
店売りしていたアイスを一口食べると、口の中に広がる甘さにホッとする。
さっきまでエライ目に合ったこともあり余計に脱力してしまう。
自然と表情を緩ませると、七海がクスリと笑った。
「時間あっという間ですね。まだまだ楽しみたいのに全然時間が足りないなぁ」
そう言われて空を見れば、うっすらとオレンジ色が掛かり始めている。
混んでいたこともありまだ楽しめていないアトラクションは多いが、いつのまに時間が経っていたんだ。
七海に連れ回され初めて見る物に目を奪われ、後半は凄まじい乗り物に思考が吹っ飛んでいたが、それでもまだ俺は当初の目的を果たしていない。
ちょうど今ベンチで二人だけだし、もしかして言えるタイミングなんじゃないだろうか。
そう気付いたら再びドキドキと心拍が速くなっていく。
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