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「…すまなかった。そんな態度を取っていたとは気付かなかった」
まさか意識するあまり考えすぎて七海を見ていなかったとは。
言われてみれば今日はもう朝七海に会ってから、気持ちが浮き上がりすぎて自分がどうしていたのかすら記憶がない。
完全に浮足立ってしまっていて、その気持ちこそが七海とすれ違う原因になっていたとは思いもしなかった。
「聞きます。悪い話じゃないなら、みーちゃんの話は全部聞きたいです」
茶化すでもなく七海の瞳がじっと俺を見つめる。
さっきまで口を開けば手を伸ばし唇を奪い、俺の思考をぐちゃぐちゃにかき混ぜていたのに。
今は手を出してくることもしなければ、勝手にキスすることもない。
ちゃんと俺の話を聞こうとしてくれている。
それどころか俺の両手を取って、急かすのではなく促すように優しく握ってくれている。
いつも俺の言葉を聞くよりも先に手が出るやつだったのに、不安な内容ではないことを伝えればこれほどまでに態度が違うのか。
「…え、ええと。だから…っ」
こんな風に待ってくれているのは初めてだ。
窓の外はもう遥かに高い景色が広がっていて、観覧車が一番上までたどり着いたことが分かる。
ここで言わなければもう言える機会などない。
絶好のタイミングだ。
「じ、実は――」
七海が俺を見つめる。
好きだ。
大好きなんだと、ただ気持ちを伝えるだけだ。
「……っ」
顔が熱い。
頭が真っ白だ。
言いたい。
ちゃんと伝えたい。
「…だ」
「だ?」
声が震える。
七海の顔が見れず、もう頭の中がいっぱいいっぱいだ。
真っ直ぐに見つめられる視線が、ひたすらに俺の心を締め付ける。
「…だ、大学が同じなんだ」
「え?」
「じ、実は俺も高校を今年で辞職する予定で…そ、それでお前の合格した場所が俺の新しい職場で…」
「――ええっ。ちょ、それマジですかっ。なんでそんな大事なこと黙ってたんですかっ」
「じゅ、受験中に余計な心配を掛けたくなくて…」
「うわ、まさかそんなサプライズがあると思わなかったですっ。ってことはまた来年からもみーちゃんと一緒にいられるんですねっ」
「…あ、ああ」
俺の言葉に七海が大喜びではしゃぐ。
だがそれとは打って変わり俺の方は酷く気落ちしてしまう。
逃げてしまった。
言えなかった。
気持ちを伝えるのがこんなに難しいことだとは思わなかった。
観覧車が回りそうな勢いで七海が俺を抱きしめて喜んでいるが、もう自分の勇気のなさにひたすらにガッカリしてしまう。
ここまでいいタイミングで、七海もちゃんと俺の言葉を待ってくれていたのにまさか言えないとは。
ここで言えないのならもう二度と七海に気持ちを伝えるなんて出来ない。
「みーちゃんとキャンパスデートしたのがすげー楽しかったんですよね。俺のこと教授さんにみーちゃん紹介してくれたし、これは絶対この大学行きたいーって思って。レベル高いなって思ったけど頑張って挑戦してよかったです」
七海がいっぱいの笑顔で俺に話しかける。
もう不安などどこにもないといった様子で、その瞳が爛々と輝いている。
「あーっ、でもまた教師と生徒に逆戻りか。んー…でも一緒にいられるほうが俺は嬉しいですっ」
向けられる笑顔には一点の濁りもなく、こんなに真っ直ぐに追いかけてくれる人に俺は何も自分の気持ちを伝えられないのか。
両思いでないと思っているから七海はすぐに誤解をするし、さっきもまたすれ違いそうになっていたのに。
それでも俺はまだ自分から逃げて、この先も気持ちを伝えずにいるつもりなのか。
「みーちゃん、大好きです。すげー、嬉しい。大好きですっ」
七海の唇が頬や髪の毛に落ちてきて、甘やかすように愛される。
これほどの愛情を貰って、それでもまだ自分の気持ちを伝えられない。
またしても七海に本当に言いたい言葉を言われてしまって、自分のあまりにもの情けなさにいっぱいに張り詰めていた糸が切れてしまう。
「…あれ、みーちゃん?」
七海の目が見開く。
触れていた手が強張り、ハッとして顔を伏せる。
だが七海に頬を取られてすぐに持ち上げられてしまった。
「…っあ、す、すまな――」
止まらなかった。
喉元まで支えたような痛みがせりあげてきて、苦しかった。
言いたいのに言えない。
情けなさすぎる自分に涙が溢れてしまった。
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