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二人で夕飯を作りテーブルで向かい合って食事をする。
シチューが食べたいと言ったのでたくさん作ってやったが、相変わらず気持ちが良いほどパクパクと食べてくれる。
大学始まるまではそれも当たり前の光景だったが、ここ最近はお互いに忙しかったため久しぶりの光景だ。
お代わりをよそってあげながら、楽しそうに大学の話をする七海に耳を傾ける。
「みーちゃん、今度サークルの試合見に来て下さいよ。俺絶対カッコいいところ見せますから」
「そうだな。予定が合えば俺もまたお前がバスケしている姿を見たい」
「来る時は絶対に来るって言ってくださいね。前みたいにせっかく来てくれたのに気付かなかったら悔しいですから。絶対ですよっ」
「分かった分かった」
ムキになって言ってくれる姿に表情が緩んでしまう。
食事を終えたら食器を洗うのは七海の担当で、俺がその隣で洗い上がった皿を拭く。
そしてまた他愛もない話をする。
こういうのが幸せなんだろうなと、ふと思う。
鼻についた泡を取ってやったらお返しのように頬に口付けられる。
照れ隠しに目を細めるが、満面の笑顔で返されればつられてこちらも笑顔になってしまう。
ずっとこうしていたいと思うのと同時に、少しずつ過ぎていく時間が勿体なく思えるような、そんな感覚。
「七海、お前に渡したいものがあるんだ」
「なんですか?」
一通り家事が済んだところで、俺は当初から渡す予定だったプレゼントを取り出した。
リビングへ戻ってきた七海に差し出してやると、その目が驚いたように丸くなる。
「入学祝いだ。お前が気にいるかどうか分からないが…」
「えーっ、いいんですか?」
「ああ。良かったら使ってくれ」
七海の目が煌めいて、そっとプレゼントに目を落とす。
「…うわ、俺今まで人から貰った物の中で一番嬉しいです」
「大げさな奴だな。第一まだ開けてないだろう」
「そーでしたっ」
そう言って包みを開ける。
取り出した腕時計を見ると、その表情が本当に嬉しそうに綻ぶ。
ああ、俺はこの笑顔が見たかったんだな、と実感してしまう。
「みーちゃん、実は俺も用意してたんです」
「…えっ?」
そう言って七海は鞄から先程俺が渡したのと同じくらいの大きさのプレゼントを取り出す。
「ほら、俺先月からバイト頑張ってたじゃないっすか。それでようやく初給料出たんで。予定が合ったら渡そうって思ってたんです」
差し出されたそれを見て、戸惑ってしまう。
七海は高校時代部活をやっていたし、恐らく自分で金を稼いだのは初めてじゃないだろうか。
今までは親の金だと思っていたからなるべく使わせないようにしてきていたが、今回はわけが違う。
「せ、せっかくの初給料なのになぜ自分のために使わない」
「えっ?自分のためですよ。今までしてもらった分には全然足りないですけど、みーちゃんに少しでもお返しがしたいってずっと思ってたんで」
「…別にお返しなんて俺は」
「まあまあ、せっかくなんで開けて下さい」
カーッと顔が熱くなっていくような感覚を覚えながら、ゆっくりと包みを剥がす。
出てきたそれは、シックなフォルムの万年筆だった。
わざわざ彫ってもらったのか名前まで入っている。
「大人のみーちゃんから見たら全然大したものじゃないかも知れないですけど。でも俺の恩返しの第一歩ってことで、受け取って貰えますか?」
七海はそう言ってニッと笑った。
予想外の七海の優しさに、喉元までせり上がるような気持ちが込み上げてくる。
鼻の奥までツンとしてきて、ギュッと唇を噛みしめた。
「…あ、ありがとう。一生大切にする」
「ふ、みーちゃんこそ大げさですっ」
「大げさではない。お、お前が初めての給料で買ってくれた物だ」
これほど尊いものはない。
じっと万年筆に視線を落としながら、胸が熱く痺れるような感覚に浸ってしまう。
「ほんとーはバイブか電マにしよーかなって迷ったんですけどー、真面目路線でいってよかったですっ」
「…お前と言うやつは人が今感動しているというのに」
「まーまー。…ってあれ、みーちゃんも腕時計買ったんですか?こんなの持ってましたっけ」
不意に七海が俺の手首に視線を落とす。
「ああ、これは神谷に先日就任祝いで貰ったんだ」
「――えっ?ってうわ、これすっげー高いブランド物じゃないっすかっ」
「そうなのか?大したものではないと言っていたが」
「あーくっそ、カミヤンにまた差を見せられたっ」
七海が頭を抱えて悔しがっているが、プレゼントというものは別に人と張り合うものではない。
俺は神谷から貰った腕時計も、七海から貰った万年筆もどちらも大切にするし、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
とはいえブランドには疎いから全く気付かなかったが、そんな高価な物ならば余計にお返しを考える必要はある。
神谷の好きな物が検討つかないが少し頭を巡らせていたら、突然七海にギュッと両手を握られた。
先程悔しがっていた顔とは打って変わり、あっという間にニッコリとした笑顔が向けられる。
「ま、でも俺みーちゃんにはもう一個プレゼント用意してるんで」
「…は?」
そう言って七海は同じように用意していたらしい紙袋を俺に渡す。
一体なんだと視線を落として、予期せぬ物にギシリと身体が固まる。
「いやー、コレずーっとあーちゃんに文化祭終わった後くらいから、可愛いなーいいなーめっちゃ欲しいなーって言い続けてたんですよねっ」
「…は?」
「今回よーやくあーちゃんが卒業祝いってことでくれたんですっ。だから後はみーちゃん次第なんですけどー。でもなんでもいう事聞いてくれるって最初に言ってましたよね?みーちゃんが協力的で本当に助かりますっ」
「…は?」
捲し立てるように言いながら、七海が「ねっ?」と威圧的な笑顔を向けてくる。
いやちょっと待て。落ち着け。
お前は正気か。
改めてバサリと紙袋からそれを取り出す。
自分でも取り出したそれを視界に入れて、サーッと血の気が引いていくのが分かった。
見覚えのある服は、以前結城が文化祭で着ていたものだ。
フリルがついたひらひらとしたスカート、どこまでも女性を意識した作りになっているエプロンドレス、カチューシャ、ご丁寧にウィッグまで入っている。
所謂メイド服というやつだ。
「絶対に無理だ」
「絶対に着て下さい」
馬鹿かコイツは。
俺をいくつだと思っている。
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