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「しばらくはヒデちゃんイジメしないと思うよ。死に神の話を都市伝説っぽく話したから」
「あの話?」
東雲の質問に照哉は頷く。
「東雲、命名の漆黒の死に神の話」
「真相は話してないわけですね?」
「もちろん」
照哉は微笑む。
英雄氏が死に神(東雲、命名)と云われるようになった真相は…。
英雄氏が最年長ボーイで入って来た日、東雲と照哉で質問攻めにした。
「ここに来る前どこに居たんですか?」
東雲の質問に、
「2丁目のピーチっちゅう店で客引きばしよったとです」
と英雄氏は答えた。
「ピーチ?あれ?先週、警察のガサ入れで摘発されて営業停止くらった店だよね?」
照哉が思い出したように口にする。
「はい。そうですばい、店が潰れましたけん」
「摘発…、何で摘発されたんですか?」
東雲は初耳だったようで
、そう質問した。
「確か、やってはいけない客引きを…」
照哉はそこまで云って英雄氏を見た。もちろん東雲も。
英雄氏は客引きをしていたと言ったよね?と2人は頭で彼のセリフをリピートさせた。
「英雄さん…客引きしたの?」
英雄氏は頷き、
「店の為と思うて客ば店に連れて行ったら、そん人達は警察やったとですよ。ワタシ、店長に怒られましたもん」
と言った。
そりゃあ…営業停止になるなあ…と2人は頷く。
「ピーチの前は?」
「夜の蝶って店です」
「そこも2ヶ月前に営業停止になってましたよね?」
英雄氏が口にした店名も営業停止で潰れていた。
理由は風俗店が営業して良い時間を守らなかったから。
「もしかして、英雄さん…営業時間を誰かに聞かれて正直に話しました?」
「はいです」
東雲の質問に英雄氏は返事をする。
英雄氏に営業時間を聞いたのはきっと、警察だ。
「その前は?」
照哉はすでに笑いをこらえている。
「確か、バンビって店です」
英雄氏が口にした店名も、もちろん半年前に営業停止になっていた。
その店も違反をしていたのだ。
その後も英雄氏が口にする店名はすべて今は無くなっている。
しかも原因は全て、英雄氏。
未成年を働かせていたとか、不法滞在とか…聞かれた質問に答えた結果だった。
しかも本人は自分が原因だとは分かっていない。
見た目、か弱い老人。
害が無さそうなのに、一番害があり、それに気付かない質の悪さ。
田中店長が飛ぶはめになったのも英雄氏が原因。
毎回、客とトラブルを起こし、風俗情報満載のネットに店名やトラブル内容を書き込まれて、店は今の状態になったのだ。
売り上げ急激ダウンに店を仕切る上の者に話がいき、命が危ないと悟った店長は逃げ出した。
ネットの書き込みは照哉がサーバーに侵入して消しているので英雄氏が原因とはバレてはいない。
疫病神?
いや、確実に営業停止と云う死をもたらした英雄氏は…
漆黒の死に神と東雲が命名した。
当の本人はあの通り天然ぶりを発揮していて、悪い人ではないと東雲も照哉も分かって居るので優しいのだ。
今夜も客はまばらで閉店を迎えてしまった。
「東雲さんが店長になるから店、持ち直しますよ」
寮への帰り道、健太が東雲の横を歩く。
「当たり前の事いうなよ」
幸太が言う。
東雲を真ん中に左が健太。右が幸太で歩く。
その前を照哉と英雄氏が歩く。
もちろん、全員同じ寮に住む。
「そう言えば、新人は名前何と云うんですか?」
英雄氏が急に話に入って来たので、また、幸太がムッとするが文句は言わない。
飴を気にしているのか、死に神の話を信じているのかはわからないけれど。
「田中シンジだったかな?」
照哉が答える。
英雄氏は暫く考え、ニヤリと笑った。
「ワタシ、凄い発見ばしました」
得意げにいう。
「なに?」
「誰も気付いとらんでしょ?言うて良かですかね?驚きますばい」
照哉が優しく聞いてくれるので英雄氏はさらに得意げな顔になり、
「新人が来たら、しのめさん以外、全員田中ですばい、凄かですね」
得意げに云う英雄氏を見つめる4人…。
えっ?今更?と全員が言葉にしたいのを我慢した。
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