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全てを理解出来た日々
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ププッ
見ていたテレビ番組から目を離して、机に無造作に置かれているスマホをそっと見る。
LINEの通知音が部屋に響くのはこれで何度目だろう。
「…未読スルーばっかしててごめん」
俺の小さな謝罪は、テレビの笑い声にかき消された。
キヨくんとは、2人で実況を撮ったあの日以来会っていない。
キヨくんが泊まった翌日の朝、俺はいつの間にかベッドで寝ていた。
ソファーで寝落ちしてしまったはずなのに、どうして?とゆう疑問はリビングに行ったらすぐ解けた。
ソファーに横になってすやすや寝ているキヨくんの姿。
あぁ、キヨくんが俺のことベッドに連れて行ってくれたんだなぁって。
こうゆうとこサラッて出来ちゃうとこもほんと好きなんだよなぁって。
そんなことを思ってたら、さっき見たキヨくんとの夢がフィードバックして、どうしようもならない想いになって、温かいのに切なくて苦しくてしょうがなくて、俺はキヨくんに[外出してきます]と綴った置き手紙を置いて、家を後にした。
もしあのまま俺が家にいたら、キヨくんとの関係が色々変わっちゃいそうで恐かったし、何より自分が変わりそうで恐かった。
だって、夢の幸せをまた感じたくなってしまっていたから。
またキヨくんの温もりを感じたくなっていた。
あの大きな手、匂い、キヨくんの全てに包まれたくなっていた。
自分が欲深くなっていた。
そんなこと望むことも気持ち悪いのに。
想ってるだけでもあまり良くないことなのに。
恐かったんだ。
あの日、キヨくんの寝ている姿を最後にキヨくんとは2週間近く会っていない。
前までは1週間に2回は会うくらいの頻度でキヨくんの顔を見ていたのに。
……あー人を好きになるってすごくすごく忙しいなぁ(笑)
幸せだって思った次の日には悲しさに溢れているなんて、ほんと、あぁ、自分が馬鹿みたいやなぁ……
俺は見ていたテレビを消して、流れそうになっていた涙を手で拭う。
キヨくんには本当に申し訳ないと思っている。
[レトさんに話したいことがある]
[お願い、LINE、見て]
昨日の夜に通知欄を見た時、こんな感じの内容のLINEが何件もきていた。
着信も何件かきている。
それを俺は全部無視だ。
多分キヨくんもそのことを分かっている。
なのにまだ送ってきてくれている。
普通好きな人からのこんなLINEがきたら飛んで喜ぶはずなのに。
どうして俺はこんなに考え方が臆病になっちゃったんだろう。
2人で話したいことって、何?
それって、もしかして…よくない話?
余計な期待を抱きたくないから、被害妄想がどんどん広がる。
俺はなるべく前向きに気楽にってゆうのをスタンスにしてるのに、やっぱり恋愛になるとどうもにもこうにも自分を上手く操れない。
わからない、わからない、でもこれだけは分かっている。
2週間前よりキヨくんへの愛しい気持ちが大きくなってるとゆうこと。
それは醜いくらいに、大きさが増していた。
「きよくん、あいたい」
思わず出た言葉に感化され、また涙が目から零れる。
会いたい、会いたい、話したい、一緒にバカな話して笑いたい、キヨくんの笑顔が見たい。
でも今会ったら、もうキヨくんへの気持ちに嘘が付けなくなる。
赤裸々に晒してしまう。
俺の気持ち悪い程のキヨくんへの愛を。
気を紛らわせるために、俺はテレビをもう1回つけた。
画面に映ったのは、1人の綺麗な女性。
右上に出されているテロップを見る限り、一年前病で夫を亡くした女性にインタビューをしている映像らしい。
色々な質問に応答している彼女は、大切な人を亡くしたとは思えないほど、素敵な笑顔を浮かべていた。
俺だったら、絶対無理やなぁ…
こんなインタビューの依頼きても絶対断るやろうなぁ…
キヨくんがこの世からいなくなるなんて、考えられないし考えたくもないしなぁ
《……ありがとうございます。では最後に、視聴者さんへのメッセージを一言お願いします》
取材者と女性の映像から、女性だけがまたアップになって映し出される。
彼女は少し考え込むような表情を見せてから、口をゆっくり開けた。
《伝えたい気持ちは、悔いなく伝えてください。もうこの世にはいませんが、私は夫にたくさんの愛をあげ、貰いました。夫のことを悔いなく愛せました。だから、自分の大切な人に伝えたい気持ちがあったら、恐くても、辛くても、勇気を出して言ってください。もし明日、自分の大切な人が目の前からいなくなったら、あの時伝えとけば良かったって必ず悔います。だから、自分の伝えたい気持ちを大切にしてください》
綺麗で芯が通ってる声色で、彼女はテレビの前の人に向けて笑顔で語っていた。
少し潤んだ目を細めて、彼女は最後に聞いて頂きありがとうございました、と言い頭を下げて終わった。
シーンが切り替わり、また別のコーナーが賑やかに始まった後でも、俺の頭の中では彼女の言葉が反芻されている。
《伝えたい気持ちは、悔いなく伝えてください》
特にこの言葉が頭の中から離れない。
あの女性が言ってた通り、明日自分の大切な人ーーーキヨくんがいなくなるっていうのはない話ではない。
交通事故に遭う確率なんてざらにある。
色々な場面でキヨくんがいなくなっちゃうような事は起こり得る。
もしかしたら、
大切な人が自分が生きている世界に生きていて、気持ちを伝えられる状態であるのは奇跡なのかもしれない。
なのに、だ。
俺はその奇跡を自分で踏み躙って【臆病】という言葉の盾に守られようとしている。
自分が傷つかないで済むように、ぬるま湯にずっとつかっていれるようにすることを第1優先にしている。
俺はこのままで本当に後悔しないのだろうか。
ブーッブーッ
いきなりの着信音にビクッとする。
...もしかして、キヨくん?
俺は携帯をバッと取り画面を確認した。
液晶画面に写っている文字は、
[牛沢]と記していた。
「うっしー...?!」
思いがけない人物だったため思わず驚きの声が漏れる。
うっしーが俺に電話なんて珍しい。
いつもはLINEのメッセージで用を済ませているのに...一体どうしたんだろう。
...緊急の用事とか?
俺はさっき考えていたことを思い返した。
俺の頭の中には、キヨくんが命に関わる出来事に巻き込まれている映像が流れる。
俺は頭が真っ白になり、震える手で通話ボタンを押した。
「...あっ、レトルト!?」
「もしもし、うっしー...どうしたの?」
うっしーの声色から、どこか焦っているような感じがしてならない。
俺の不安がますます肥大していく。
「......あのなレトルト、落ち着いて聴いてくれ」
嫌だ。
聞きたくないって、本能が騒いでいる。
聞いたら良くないことだって俺に訴えかけてくる。
「実は、な、キヨが倒れたんだ、とりあえずキヨの家まで来ーー」
俺はうっしーの言葉を最後まで聞かずに、携帯を投げ出して家から飛び出した。
キヨくん、キヨくん、本当にごめん。
こんな馬鹿で臆病な俺でごめん。
伝えとけば良かった。
俺の気持ちちゃんと伝えとけば良かった。
キヨくん、俺、キヨくんがいなくなったら多分生きていけなくなるよ。
キヨくん、こんな我儘な俺だけど、おいていかないで。
そうだよ、キヨくんがいなくなったら全身ラジオも終わりになっちゃうよ...?
そんなの、嫌じゃん...キヨくん...
俺、キヨくんが大好きだってまだ伝えられてないよ...!!
俺は、ただただ無我夢中にキヨくんの家まで向かった。
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