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コンビニまでは、夢中で走った。
けど、いざ到着してみると、なんで来ようと思ったのかも分かんなくなって、呆然とした。
眩しいくらいの明るい店内。
どこの棚を見ても、色とりどりの商品がぎっしり詰まってるのに、買いたいものが見つかんない。
オレ、何が欲しかったんだろう?
……甘いモノ?
けどそう思った瞬間、ふるふると振られる金髪の頭がよみがえり、モヤモヤと悲しさが込み上げる。
今頃あの2人は、何してるんだろう?
ズキッと胸が痛んだけど、気にしないフリでコンビニの狭い店内を歩く。
何もかも売ってるのに、どれも欲しくない。
ぼうっとしながら棚と棚の間を巡り、あちこちに視線を向ける。
そしたら目についたのは、甘いモノじゃなくてその横に並んでたフルーツワインで――。
お酒。そう思った瞬間、なんだかすごく飲んで酔っ払いたい気分になって、「えいっ」って1本引っ掴み、黄色いカゴの中に放り込んだ。
ついでにドリンクコーナーの方に行き、ガラスの扉を開けてビールやチューハイを適当に掴んでカゴに入れる。
けどお金を払って店を出ると、外はやっぱり真っ暗で、どうしようって思った。
家に帰りたくない。
でも、明るいコンビニにもいたくない。
ずしっと重いレジ袋をぶら下げて、見知った街をぼんやり歩く。
明るさを求めて駅の方に行ってみたけど、とうに終電もなくなった時間だし、真夜中で人通りもない。逆に物寂しい雰囲気で、行き場がなくて途方に暮れた。
駅を通り過ぎて、街路灯の照らす夜道をそのまま歩く。
公園の横を通った時、屋根つきのベンチがライトで眩しく照らされてて、なんでかフラフラと吸い寄せられた。
住宅街にある真夜中の公園。誰もいない園内に足を踏み入れ、ライトで照らされたベンチに近付く。
周りにゴミもないし、ちゃんと掃除されてるっぽくて、ベンチの座面も普通にキレイだ。
黙ったままそこに座ると、「あー……」って唸り声が口から漏れて、思ったより疲れてたことに気が付いた。
そんな長い距離、歩いたかな?
運動不足?
ベンチにもたれたまま、はーっ、とため息をつき、レジ袋の中を漁る。
衝動買いしたフルーツワインを取り出してから、栓抜きがないって気付いたけど、幸いコルクタイプのじゃなかったみたいで、カチッとひねるだけでフタが開いた。
ちょっと行儀悪いけど、そのままビンに直接口をつけてゴクッと飲む。
フルーツワインは思ったより甘ったるい味で、濃くて、1口飲むごとにノドの奥が焼けるみたいだった。
ぷはっ、と息をつき、ワインで濡れた口元をぬぐう。
ふわーっと顔が熱くなったけど、結構度数高いのかな? 気になったけど、でもラベルを読もうって気分にはなれなくて、まあいいか、って更に飲む。
最初ずっしり重かったビンも、どんどん飲むごとに少しずつ軽くなった。
ビールみたいにごくごく飲めない、甘くて濃いワイン。ぐっと飲むごとに息継ぎが必要で、ぷはーっと息を吐くたび、じわっと視界が歪んでくる。
反射的にぬぐったけど、でも真夜中の公園にはオレ以外に誰もいないし、「泣くなよ」なんてたしなめて来る恋人もいない。
彼の視線を気にする必要もないし、泣きたいの我慢する必要もない。
遠慮なくぽろぽろ涙をこぼし、更にワインのビンをあおる。
ワインの甘ったるさに飽きたら、今度は口直しにビールを開け、同じようにぐーっとあおった。
「純一君の、バカ……」
ぼそっと愚痴って、小さく鼻をすする。
誰も聞いてないの分かってるけど、夜中だし住宅街だし、さすがに大声出す勇気はない。
黙って抱えてらんなくて、でも大声で叫ぶこともできなくて、中途半端でイヤになる。けど、それがオレなんだから仕方ない。
「キライ……」
腹立ちまぎれに悪態をついたけど、ホントに嫌いにはなれそうになくて、じめじめと泣けてくる。
酔ってんのかな? でも、ちょっと顔が熱いくらいだし、多分そんなでもないよね?
酔っ払いって、純一君とかあの子とか、ああいうのをいうんだ。オレじゃない。
「オレ……」
ぼそっと呟きかけた言葉は、それ以上形になんなくて、生温い夜の空気に消える。
泣いてる内に、何が悲しいのかよく分かんなくなって、どうでもいいやって思えて来たけど、どよんとした胸は晴れなかった。
ビールを1本開けた後、さっきのワインの残りのフタを開け、再び直接口飲みする。
甘い。濃い。でも、いくら飲んでもカーッと顔が熱くなるだけで、眠くなったり気持ちよくなったりはしなかった。
はあ、とため息をついて、半分以上減ったワインボトルにフタをする。
何のためにお酒を飲んでるのか、なんで飲もうと思ったのかも、もうよく分かんなくなった。
バカみたいだなって、自分でも思う。
ヤケ酒したって何も解決しないのに、バカみたい。
もうお酒、飲みたくない。
1人ぼっちで、こんなとこにいたくない。
けど、家にも帰りたくなくて、どうしようもなかった。
純一君、オレの事探してる? それとも、いなくなったことにも気付かない?
やっぱり付き合うなら、女の子の方がいいのかな?
ガイヤさんを宥めるように腕に抱く、彼の姿を思い出し、ぶんぶんと首を振る。
あまりに思いっきり振り過ぎて、ちょっとクラッとなって吐き気がしたけど、ベンチにもたれてる内に治まった。
ケータイ忘れたの、わざとじゃなかったけど、よかったなって思う。
だって彼からの連絡、気にしなくていい。連絡くれないって嘆くこともないし、電話で叱られて悲しくなることもない。
嫌な気分にならなくて済むんなら、ケータイなんかなくていいかも。
あれこれ想像すると、どんどん悲しくなって泣けて来たけど、もしかしたらこれも、酔ってるせいなのかも知れなかった。
ぼうっとしてると、何度もさっきのこと思い出して、どよんとした気分も繰り返す。
1人でいても逃げられないなら、帰った方がいいのかな?
あれこれ考えてどよんとするなら、ちゃんとしっかり自分の目で確認して、「イヤだ」って言った方がいいのかな?
イヤだって……言わなきゃ分かんない?
もし反対の立場でも、純一君、怒ったりしないのかな?
同居なんて、するもんじゃないんだなって、今更ながらに後悔した。
ケンカして家を飛び出しちゃうと、気まずくてどこにも帰れない。別にケンカした訳じゃないんだけど、あの部屋に帰れないのは同じで、どうしようって困惑する。
もう同居、やめた方がいいのかな?
「やめる」って言う?
オレの提案に、あっさり「そうしよーぜ」って賛成されたら……って、想像すると悲しくなるけど、会うのやめれば、きっとその内平気になる。
こんな風に、寂しく思うことも、きっとなくなるハズだった。
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