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公園のベンチに座って、どのくらいぼうっとしてたんだろう?
「Hey!」
聞き慣れない甲高い声と共に、肩をパンと叩かれて、ハッと意識が浮上した。どうやら、ベンチにもたれてうたた寝してたみたい。
首のダルさに参ったなって思いながら、慌てて少し姿勢を正す。
そしたら真横でガサッと音がして、誰かが隣に座って来たからビックリした。
ギョッとして目を向けると金髪の白人の女の子で、またビックリする。ガイヤさん、って、純一君に紹介された女の子だと、着てる服を見て気が付いた。
その彼女はオレの真横に座ったまま、置きっぱなしだったレジ袋をヒザに乗せて、ガサゴソ中を探ってる。
「Oh」
ぱぁっと笑顔になりつつ、彼女が取り出したのは甘めの缶チューハイ。なんで? と、疑問に思うよりも早く、プシッと缶が開けられる。
「飲みまショー」
「は? え?」
戸惑うオレの手に、開けたばっかの缶を握らせるガイヤさん。それからもう1本レジ袋から取り出して、またプシッとプルタブを開けたりしてて、何が何だか分かんなかった。
「カンパーイ、イェーイ!」
明るい声で缶を掲げられ、無理矢理乾杯させられる。彼女が真横でぐいーっと缶をあおるのを見ながら、オレもチューハイに口をつけた。
甘めのだって分かってるのに、炭酸ばっかがきつくて、味がよく分かんないの、なんでだろう?
「泣いてまシタか?」
不意打ちでズバッと訊かれ、頬に手を伸ばされて、ビクッとする。
泣いた原因作ったの、ガイヤさんなのに。けどそういや彼女も大泣きしてたの思い出して、文句なんて言えなかった。
モヤモヤがなくなった訳じゃないんだけど、今は悲しいって気持ちの方が大きい。
黙ったまま固まってると、ふいに首元に細い腕が伸びて来た。
うわっ、と思う間もなく抱き寄せられ、ぎゅうっと抱き着かれてピシッと固まる。息もできずにフリーズしてると、ちゅうっと頬にキスされた。
「うわっ、ちょっ!?」
慌てて立ち上がろうとしたけど、意外にも拘束がキツくて振り払えない。
オレの動揺を知ってか知らずか、彼女は「はははは」って楽しげに声を上げて笑ってて、どうしようと思った。
オレに抱き着く彼女の手には、まだ中身の残ったチューハイの缶が握られてて、今にもこぼされそうで身動きできない。
イタズラに頬に冷たい缶を押し当てられ、「ひぃっ」と情けない悲鳴を上げる。けどガイヤさんは、オレの悲鳴に更に楽しそうに笑ってて、ダメだこれ、って絶望した。
「あの、酔ってますか?」
っていうか、酔ってるに違いないよね?
「酔ってナイです」
ビミョーに不自然なイントネーションで、くすくす笑う彼女。
オレの方はというと、わずかな酔いも吹き飛んで、悲鳴を我慢するのでいっぱいいっぱいだった。
こういうの、絡み酒っていうのかな?
ラッキースケベ? ちょっと違う? 純一君に縋り付いてたの見た時は、じりじり妬けてたまんなかったけど、いざ自分が同じ目に遭うと、「助けて」って言葉しか頭に浮かばない。
オレの首に腕を回したまま、チューハイをこくこく飲み続ける女の子。
その顔がすごく近くて、金髪が時々顔にかかって、でも振り落とすような勇気もなくて、身動き取れなかった。
頭も動かせないから、ガイヤさんの動きもよく分かんない。
重いなと思ったら、いつの間にかヒザの上に乗られてて、「ひぃぃぃぃ」って心の中で叫びっぱなしだった。
「あ、の、純一君は……?」
ギシッと首を背けながら訊くと、「ふぁっ?」って不思議そうに訊き返された。
「ジュン? デスか?」
「そー、イエス」
思わず英語で返事すると、それにツッコむこともなく、彼女がごそごそとケータイを取り出す。
「ジュン。Let's call him up」
「ええ? うわっ」
早口の英語で言われ、理解するより先にカメラのフラッシュを浴びせられる。
暗い公園に慣れた目に、フラッシュの目映い明かりはちょっとキツイ。オレは思わず目を閉じて――その間に、ガイヤさんはメールを送ったみたい。「へへへ」って笑いながら、胸の谷間にそのケータイを押し込んだ。
ポケット代わりなのかな? と、そんなバカげた感想が浮かぶ。
「ジュン、すぐ来ます」
オレのヒザの上に乗っかったまま、機嫌よくうなずくガイヤさん。
「ワタシのboyfriend、優しくナイので迎えに来ナイ。でもジュンはゲイでしょ。ゲイの人優しいから、すぐ来ます」
癖のあるイントネーションで語られる言葉が、よく理解できなくて呆然とする。
ボーイフレンド? 迎え? ジュンはゲイ?
「純、一君、はゲイ、じゃ……」
思いっ切りドモりながら否定したけど、否定になってるかどうかは分かんない。ただ、彼女にとっては当たり前の事実みたいだった。
オレらが恋人だってコト、誰かに言ってたなんて知らなくて、ちょっとショックだ。
「ミンナ知ってマス」
その言葉を鵜呑みにはできそうにないけど、ウソついてる感じでもなさそうで、ソワソワした。
ゲイカップルが恋人と同棲してるマンションだから、純一君に頼んでうちに来たんだって、そう言われると、あんだけ嫉妬したのが逆に恥ずかしくなって、どうしようって戸惑った。
カーッと顔が熱くなる。
誤解して勝手に飛び出したことも、恥ずかしくて仕方ない。
ちゃんと探してた? 彼女も一緒に探してくれた?
オレが悪いの?
けど、そう思うと消化しきれないモヤモヤが気になって、逆にみじめになっていく。
さっきとは違う気分で、でもやっぱり笑えるような気持ちにはなれなくて、せっかく酔いで浮上しかけてたテンションがずーんと地面に落っこちた。
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