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第4章
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『ともみ…、ともみ。
どうして、私を置いて行ったんだい?』
ちがう。
『こんなに愛しているのに、
こんなに大切にしているのに…。』
ちがうんだ。
『私をどうして、裏切ることが出来たんだい?
ともみ…。』
違うんだよ、おれは“ともみ"じゃない。
『ああ、でも良いんだ…。
君は結局、私の所へ戻ってきた。本当は私を愛しているんだろう?』
やめて、気付いて。
おれは“ともみ”じゃないんだ。
やめてくれ。
こんな事は嫌だ…。
もう、許してくれ…。
ーーー"とうさん“。
ヒヤリと額に冷たいものを感じ、七瀬は目を覚ます。
目の前には、見慣れた自室の天井があり、身体の上には馴染んだ布団が掛けられている。
どうやら、自分は自分のベッドで寝ているらしい。
七瀬はゆっくり、目を回し、
傍らの椅子に座っていた御船を見つけた。
いつからそうしていたのだろう。
御船は七瀬の覚醒に気付き、フッと笑みを浮かべた。
「…おはよう、
気分はどうだ?」
御船は七瀬の額から手を離し、
肩肘をついて、七瀬を覗き込む。
口元の笑みがいつもより少しだけ柔らかい
口調もいつもより少しだけ、穏やかだった。
そのまま、片手で七瀬の髪を労わるように撫でる。
「…ああ、大分良い…。」
七瀬はなんだか気恥ずかしくなって目を逸らした。
どれくらい寝ていたんだろう。
七瀬は掛け時計を見て、今は夜の9時半である事に気付いた。
意識も段々定まってきて、先程までの出来事が鮮明に浮かび上がってくる。
ーーーそうだ。おれ、御船の前で吐いたんだった。
更にいたたまれない気持ちになり、
熱くなった顔を背ける。
どうしようもないが、とてつもなく恥ずかしい。
しかし、ここまで介抱してくれたのは
間違いなく御船なのだ。
何も言わないワケにはいかない。
そう思いながら、
顔を背けたまま、何も言い出せずにいる七瀬の頰に冷たい何かがピタリと触れた。
驚いて顔を元に戻すと、冷えたペットボトルが御船によって頰に添えられていた。
「スポーツドリンク。」
「……。」
「飲め。
…と言っても、お前の冷蔵庫から勝手に拝借してきた物だけどな。」
ニヤリと笑い、キャップを開けて、
ペットボトルを差し出してくる。
「起き上がれるか?
それとも俺が、口移しで飲ませてやろうか。」
「良い。」
七瀬はパッと起き上がり、その反動で頭が少しグラついた。
危うく、ベッドから落ちそうになるが、
しっかり御船によって支えられる。
また笑いが降ってきた。
「フ…あまのじゃく。」
「うるさい。」
御船の手からペットボトルを奪い取る。
そのまま口元に持っていき、勢い良く飲む。
乾いた喉がひんやり潤い気持ちが良い。
半分ほど飲んだところで、七瀬は
近くの机にペットボトルを置いた。
「…御船。」
「うん?」
「お前がここまでおれを運んでくれたのか?」
「そりゃそうだ。
ここには俺とお前しかいねえ。
勝手に寝室を探して寝かせた。
ついでに汗だくだったんで着替えも探して
着せといた。
制服は今洗濯機の中だ。」
「………。」
七瀬の顔がますます熱くなる。
何か言わなければとは思うが、何も言葉が出ない。
そんな七瀬に御船はさも可笑しそうに笑う。
「なにも今更そんな恥ずかしがる事じゃないだろ?
裸に引ん剝いたのだって、今日が初めてではないしな。」
七瀬はキッと御船を睨む。
ーーー確かにそうだが、なんでそう言葉がいちいち卑猥なんだよっ。
しかし、助けられたのは事実だ。
とにかく、詫びを、と思った時、
不意に真剣な言葉がかかる。
「…で?
なにがあった。」
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