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第10章 side 御船
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火照った声が、切なげな声が、
御船を呼んだ時、御船の胸が愛おしさで溢れ出た。
責めを受けながら、泣きながら、
それでも、御船を呼ぶ声に。
「み、ふね…。みふね、みふね、」
苦しいだろうに、辛くてたまらないはずなのに、
意識を失ったっておかしくないこの状況で…、
快感に流されたって何もおかしくない、
我を忘れ、更なる刺激を求め、トドメを欲しても
おかしくないこの状況で、また、そう仕向けられている状況で、
七瀬は泣きながら、御船を呼んだ。
ナイフはまだ首元から外されてはいないのに、
今すぐその身体を掻き抱きたくなった。
それに苛立った八代が七瀬の耳元で何か囁いている。
まるで、逃がさない、とでも言うように、
いやらしく七瀬に絡みついて離さない。その拘束が強すぎるのか、七瀬は顔をしかめて、身をよじっている。
そして、囁かれる言葉にみるみる顔を青ざめた。
御船の胸に怒りがまた積もった。
ーーー何も聞くことはない。
何もそいつの言うことなんか聞く価値はない。
声を荒げようとした瞬間、
怪しげな音が響いた。
ギッギ、と椅子が軋むような音。
「ひィ…ッ!」
七瀬の身体が更に反れる。肩で息をしながら、
止められないように腰を揺らしている。
御船はその動きから、八代のモノが、
七瀬の後ろを責めているのだと分かった。
頭にカッと血がのぼる。
御船の口の中にまた血の味が広がる。
ーーークソ野郎が。
ふざけやがって。
ダメだ、ダメだ、熱くなる前に、
把握しろ、八代の動きを。
一瞬の隙を突くために。
その腕から七瀬を奪い返すために。
しかし、直接、いくら挿れられているわけでないと言っても
今の七瀬にとってそんな行為は
生殺しのまま嬲られているようなものだ。その青ざめる顔を見るだけで身体中が痛い。
八代は見せつけるように、腰を振り続ける。
「ああッ、あ、あぅ、ん、んっ、んッ」
七瀬が助けを求めるように、天を仰いだ。
ーーーくそ。
「…あああ、あっあっ!」
そして、涙を流しながら、また口を動かした。
『みふね、』
「七瀬。」
その声にならない声を掻き消さぬように、
強く強く、八代の行為を遮るように、
七瀬を呼ぶ。
七瀬がおそるおそる、顔をあげた。
その顔は真っ青で罪悪感に濡れている。
ーーーばか、お前がそんな顔する必要ねえだろ。
「み、ふね…。」
絡みつけられている身体は今も快感に揺れている。御船は当てられているナイフの動きを少しずつ、把握した。
「七瀬、大丈夫だ、ここにいる。」
ーーーお前は何も、自分を責めることなんかない。
「…ッあ、ふッウ、」
ーーーお前につけられた傷を倍にして、必ずそいつらに返してやるから、
絶対に…、
「何があっても、お前を置いて行ったりしないから。」
七瀬の頰にまた涙が伝った。
「みふね…ッ、」
「ん、」
ーーー離れたりしねえ。
「…ああっ、ん、みふね。」
「ん、いるよ、ちゃんといる。」
ーーー必ず、助け出す。
大丈夫だ、大丈夫だ。
八代のナイフを視界に映しながら、
七瀬に視線を送る。少しでも、七瀬の心を守る防壁となるように。
揺れる身体に変わらず、視線を送る。
「御船くん、邪魔をしないでくれるかな。
今良いところなんだからさ。」
不意に、八代の低い声が割り込んだ。
「俺の考えでは今邪魔なのはどう考えてもお前なんだがな、」
ナイフを持つ手が強張っている。
「七瀬くんのこの顔が見えないの?
快感を求めて狂うこの顔がさ。もう楽にしてあげようとは思わないの?」
そして、少しだけ、震えている。
「いつだって思ってるぜ?早くお前の腕を踏み潰して、俺の腕で思いきり抱きしめてやりたいってな。」
八代がイライラとしたため息をつく。
もういい、と言って、
七瀬のズボンに手を入れた。
途端、七瀬の身体が大きくしなる。顔が仰け反るって、息が更に荒くなる。
「君のせいだ、御船くん。もう手加減しない。」
「…ゥ、あ、ああああッ!!」
七瀬が叫び声をあげて、また身体を暴れたせた。八代がわざと大きく、クチュクチュと、みだらな音を出す。
御船は強く唇を噛んで舌を打った。
ーーーちくしょう、あと少し…。
あと少しで、動き出せる。
しかし、あとひとつ、七瀬の安全が保証しきれない。
抱きしめたい、引き戻したい、今すぐ、
苦しみから解放してやりたいのに。
「は、は、あ、あああッ、んんあッ!」
ローターの振動と、七瀬の後ろから響く水音が部屋に響く。
ガクガク身体を震わせながら、七瀬が
八代の指に沿うように腰を揺らす。
八代はなおも手を休めない。
クチュクチュクチュクチュ、クチュクチュ
「ん!ん、ああッ、あ、は、」
頭と心臓がガンガン鳴る。
ーーーあと一歩だ。
確実に、八代は動揺している。
未だになかなか堕ちない七瀬にイラついて、
八代に耳を傾けない御船に業を煮やしている。
ーーーあと少し、
「ん、んぅ、うっ、ああ、」
「さあ、顔をお上げ。」
ナイフを持った手が、七瀬の顎を持ち上げた。
ガクガク痙攣して、顔を歪ませながら、
七瀬が御船に視線を合わせる。
そして、その中に、
御船はなにか、今までにない
七瀬の強い意志を感じた。
御船に、合図を送るような、何かを。
「あ、あああッ、ん、ぅ、あ、ンッあ!」
「さあ、七瀬くん、気持ち良いね?もう楽にして欲しいだろう?言ってごらん。」
「…あああああッ、あ、あ、」
クチュ、クチュ、クチュ、クチュ、クチュ!クチュ!
クチュクチュクチュクチュ、クチュクチュ!!
ヴヴヴヴヴ…!
七瀬は頭を振り、唇を噛みながら、必死に快感に耐える。
異常に責め立ててくる手に苦しみながらも、
それでも、なお、強く御船を見つめてくる。
ーーー何かするんだな?
その瞳は諦めた絶望の瞳じゃない。
恐怖や怯えの色でもない。
ーーー俺を…、
信じてる、といった色だ。
何かするのだ。決して投げやりの目じゃない。
そして、その一瞬を、
御船に託そうとしている。
御船の目がキラリ光った。
八代に警戒されない程度に、身体を前に身構える。
直後、七瀬の強張っていた身体が少し、くたりと後ろに傾く。そして、その瞬間わずかに、
八代のナイフを持った手が緩んだ。
御船が一歩前に、足を踏み出す。
八代はそれに気付かず、
七瀬を堕とそうと必死に、後孔に意識と指を集中させている。七瀬の身体が揺れて、椅子が大きくギシギシと軋んだ。
その反動でナイフを持った手がですこし、
七瀬の首から外れて下に向けられた。
ーーー今だ。
御船が音を殺して、駆け出する。
そして同時に七瀬が思いきり、八代の手の甲に歯を立てた。
八代の叫び声が響く。ナイフが落ちる。
それでも、七瀬はギリギリと噛みつき続けた。
「貴様…ッ!」
驚きと怒りの色を滲ませ、八代が七瀬から離れ、放り投げながら、
その身体を蹴り上げた。
「…ッウ、」
「殺してやる…ッ!」
そして、再びナイフを取って屈み込み、
その手を振り上げた瞬間、
御船の蹴りがその腹に強く入った。
「ぐ…ッ!」
顔を歪め、痛みで八代が蹲る。
床に倒れこみそうになった七瀬をしっかり受け取め、後ろに庇い込み、
御船はそのまま、ナイフを持つ八代の手を踏みつける。
「ッあああ!」
八代が悲鳴をあげた。
ギリギリと足に力を込め、緩めたところで、ナイフを八代の手の届かないところへ蹴飛ばす。
そして、床に倒れる八代をもう一度強く、蹴り上げる。
八代の口から血が飛んだ。
「ゔっ、が、はっ…」
「…お前の始末は後だ、そこでしばらく這いつくばってろ。」
ようやく、力を失い、整った顔を歪めた八代に殺意のこもった声で吐き捨て、
御船はようやく、振り向いて、
七瀬を強く抱きしめた。
「あ、っ、みふね…、御船…ッ、」
涙の混じった声が、御船を呼ぶ。
ーーー七瀬、七瀬。
「七瀬…、悪い、」
ーーー遅くなった…、
ひくひくと身体を震わせて、七瀬が御船に擦り寄る。手が麻縄で拘束されているのを失念していた御船は飛ばしたナイフを手に取り、素早く縄を解いてやる。
「あ、あ、御船…、御船…。」
七瀬の手が、御船の首に回った。
そのまま弱々しく、御船にしがみつく。
御船は息の詰まる思いで、七瀬を更に強く抱きしめた。
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