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800字以内で「雪の降った翌朝は、」
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雪の降った翌朝は、素直になりたい背中をあたたかく押してくれる。目を開ければ少し前まで遠くからしか見つめられなかったあの顔が、手を伸ばせばすぐ触れるとこに。髪をそっと撫でれば込み上げるのは幸せと、不安。この幸せを返せているのか、分からない不安。
一樹のことは、何度も諦めようとしてもなお、思い続けずにはいられなかった。一樹はいわゆる人気者。学部が違ければ、学年が唯一の接点でしかないのに、僕でも知っていたぐらい。頭がいいとか、かっこいいだとか。気付いたらすれ違うことが案外多くて、目で追っている。追っていたら笑顔が好きになっていた。でも接点もなければきっかけもない。その上いつも人に囲まれている。でも僕にとって十分だった。そのはずだった。
欲張るようになったのは、予報外れの雨の日からだった。喫茶店で珈琲を淹れていたら、傘のない一樹が雨宿りをしに来た。店は大学に近くもなければ、駅にも近くない。それでもいた。距離がこんなに近いことや、珍しく一人であることとか、そもそも目の前にいる事実に追いつけない僕に止めを刺したのは、僕を知っていた事だった。タオルを貸すと言って、動揺を隠すために逃げるように取りに行って、必死に自分を落ち着かせたのを覚えている。それも呆気なく笑顔に崩されては、記憶もそこから朧げ。はっきりしたのは、一樹を好きになった事。
それから奇跡みたいなことが続いて、思いが通じて、隣にいる。初めて見たときからたくさんの「幸せ」を貰っていて、今この瞬間も貰っている。一樹は、何度も好きだと言ってくれる。言い返せても自分から言えていない。難しく考えすぎているのを知っている。優しく待ってくれているからこそ、ちゃんと言いたい。でも今はもう少し待って欲しい。起きた君に、寒い、と言ってくっつくのが今の僕にとっては精一杯の好き、だから。あとで朝に弱い君に、温かい珈琲を淹れるから。あともう少しだけ。
(799字)
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