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1、「交響詩 ローマの祭り」
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ここが、吹奏楽部の部室かぁ…
すこし緊張しながら、漏れ聞こえるスケール練習の音に耳を傾ける。あ、今の人指詰まったな。
俺は白神白夜。この春から高校一年生になる。県内でも有名な私立高校で、中学からの友達は1人もいないけど、ここの吹奏楽部にどうしても入りたくてたくさん勉強して入ることができた。
俺は中学のときからホルンを吹いている。
別に音楽一家にうまれて、将来プロになりたくてやっているとかそんなわけではなくて、(だったらもっと小さい頃からやっている)小さな頃から音楽が好きで、中学では吹奏楽部に入ったのだ。女子の世界に、経験者でもない男が入るのは結構な勇気がいったが、音楽を愛する気持ちに性別なんて関係ないと決め、毎日自分なりにたくさん練習したので、それなりの自信は持っている。
そんな俺は、中学3年生の高校見学会で色んな学校の吹奏楽部の演奏を聴き比べていた。どこの学校の演奏にもそれぞれの学校の良さがあって、とても楽しかったし、部活だけで高校を決めるわけではないがついでだしと片っ端から色々な高校の演奏を聞くつもりだったのだが、俺はここの演奏で、ソロを吹いていたトランペットの人の音が忘れられなくなってしまったのだ。あんなに綺麗で澄んだ音を、俺は聞いたことが無かった。プロの演奏に比べても、俺にとってはなんの劣りも無いように感じるほどだ。たしかな技術に、豊かな感情が詰まっていて、思い出すだけで胸がときめく、そんな音。そのせいでその後に回った高校では、なにも考えられなかった。ずっとその音が耳の奥にこびりついていて、壊れたレコードのように繰り返し繰り返しリピートし続けるのだ。
その時の俺の学力ではこの高校に入れるわけもなかったが、その音の持ち主のいるバンドで吹けるなら、どんな努力でも惜しまなかった。それくらい強烈なインパクトを持って、あの人の音は俺の中にとどまっていた。
…そして今、なんとか受かって、吹奏楽部の部室の前に俺はいる。
この扉の先には、あの音の持ち主がいるのだ。
わくわくしながら、俺は扉を三回ノックしてゆっくり開けた。
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