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「…」
「一緒におはなししてくださいませんか?この子達も私も、お話しするのを楽しみにしていたんです」
「…」
無言で近寄り、そっと優雅に膝をついてみせたこの男。
森の番人、サーシャ本人であった。
彼が現れれば、森の動物たちはたいへん喜んだ。
ちゅっ
跪き、サランの手の甲へ口付けを落とす。
まるでどこかの国の姫と騎士のようだが、当の本人たちはあまり気にしていないようだ。
「サーシャさん、聞いてくださいませ。わたし、ついに大人になったそうなのです!」
「…?」
こてん、と首を傾げるサーシャ。
「わたし、せいつうしたのです」
たどたどしく最近覚えた言葉を笑顔で教えるサラン。
そして困ったように微笑むサーシャ。
ゆったりとした深緑色のローブでサランを隠すように抱きしめる。
「あたたかいです、サーシャさん。お祝いしてくださっているの?…わっ」
にこにこして上機嫌なサランを押し倒し、空を見上げるような体勢で芝生へ寝転がる。
「ふふ、綺麗な水色ですね、サーシャさん」
「…」
サーシャと会ったのは、今日と同じで空が水色だった日のことだ。
レミルに連れてこられたサランは、久しぶりの自然との触れ合いにとても喜んだ。
そしてレミルが少し目を離したうちに動物達にサランは
えいさほいさと連れていかれたのだった。そう、ちょうど今寝転んでいるこの場所に、だ。
すぐ横には透きとおった大きな泉がある。中心には小島と巨木が生えており水中を覗けば根が張り巡らされていることを知る。
初めてここに来たことを思い出してサランは、にこにこと微笑んだ。
「…」
サーシャはそんなサランを一瞬も見逃さないようにとじっと見つめる。
「サーシャさん…あの木は何と言うの?」
サーシャの腕に頭を置いてサランは小さな口で可愛い声を出す。
「…ちゅっ」
その口にサーシャは軽くキスを落とし微笑むと優しい声色で「名も無き木です」と答えた。
「お名前がないの?」
「…」こくり
サーシャに口づけされたことに気づいていなかったようにサランはこてん、と首をかしげる。
「まぁ、ではわたくしがお名前を決めますわ、そうしたら挨拶がしやすいと思うのです。どうでしょうか」
「…」こくり
「では…うーん…」
サーシャに抱かれ、動物たちに見守られる中サランは悩む。そして、
「シハと呼びたいです。みんなはどう?」
サランが閃くと動物たちはみな嬉しそうに鳴く。サーシャも微笑んでいるようだ。
そしてぬくぬくとサーシャの温かみに触れてサランはうたた寝をしたのはそれから間も無くしてのこと。
「サラン様?…?眠られたのですね、クスクス、それでは帰りましょうか」
後に森へ戻ってきたレミルに抱かれサランは城へ連れられた。
動物たちはいつのまにかいなくなっていた。
木の陰でサーシャと共に見守っていたのだった。
「花様…またおいでください」
滅多に喋らない男が、遠くにある白亜の豪邸を見つめ、音を風に乗せたとか。
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