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ずぶ濡れになったフィオリと、その腕に抱きしめられたサランを迎えたのはレミルだった。
1番大きな部屋へ2人を案内し、すぐにランプをつけて部屋の温度を上げ、レミルはタオルを用意し、2人の水気を拭き取る。
大きなベッドは、寝かされたサランの小ささを際立たせた。
「王よ、入浴は…」
「…」
フィオリの体調を心配したレミルだが、彼は弱々しく首を横に振る。
「我は知らなかったのだ…この者が、我の求めた人間だったことに……」
力無い様子のフィオリはベッドの上へ上がり、サランの頰を撫でた。壊れ物を扱うかのように、優しく、怯えながら。
そしてレミルは驚き、絶望に近い感情に捕らわれた。王が嫁に迎えると宣言していたお方が、サラン様だった…。あんなに、側にいたのに。
「なんと、、、そう、だったのですね、サラン様のご容態は…」
「サーシャはもう手遅れだと…」
シーツを握る力が強くなる。
「…サーシャ…に会ったのですね…」
レミルはサランの元へ近づき、無礼を承知でベッドの上へ上がりこむ。フィオリは怒ることもなくサランを見続けた。
「ああ、なんて優しい顔をしているのですかサラン様…
寒く、ありませんか?」
冷たい頰に手を触れ、熱がサランへ伝わることを願う。
あまり得意ではない火の魔法を使い更なる部屋の気温上昇へ力を入れる。早くサラン様が温まるようにと。
「そうでした、まだ、サラン様に会いたがっている方がいらっしゃるんです。起きて…いてください、ね」
レミルが退室し、フィオリは抑えきれない衝動でサランを抱きしめる。
「すまない、すまない…我が悪かった。お前の好きな物をやる、行きたい場所へ連れて言ってやる、ソアへ帰りたいのであれば、返してやるから…だから、だから…まだ死ぬな」
魔法のかかったこの部屋では、人間にとって生きやすく、温かみのある柔らかな場を成す。それどころか生きる力を引き出すような魔法がかけられている。
…のだけれどサランは冷たいままだ。
「ああ、我を置いていくな!…っ、頼むから、起きて、話せ!我を、見ろっ…その瞳に我を映さないか!」
増していく声音とは裏はらに、撫でる手は優しい。
「失礼しますっ!サラン様!」
慌ただしく入室したレミルの腕にはピーピーとうるさい獣化したままの子供が2匹。
「サラン様!あなた様の、御子さまです!今まで鳴きもしなかったお二人が…」
「キャーーーウッ!!!」
「ギャウーーー!!!」
2匹は大暴れだ。ジタバタとシーツを転がりサランの顔や手を舐める。それでもサランの目は開かない。ああ、さいごに会えて良かった、と…そう思えばいいのだろうか。
だったら…
「ちょっと!ちょっとお待ちください!!!王よ!!!!一体何を!?」
「…なんだ、これは我の妻だぞ」
「だからって!子どもの前で…こんな時に不謹慎です!」
「夫婦の営みを止めるお前が不謹慎だ!」
「なっ!?…子どもにサラン様との、、お別れなど、、時間を与えてください」
キス1つが討論の原因だ。
そこに突然風が吹いた。
「ん……」
「「「「!!!」」」」
「サラン様っ!」
「キャン!」
「ギャウ!」
「…」
皆がサランをじっと見つめる。…と、
バンッ!!!
「ただいま帰りました!兄様!ご出産おめでとうございます!さあレミル!酒の祝いを…わあああっ!かわいい!これが俺の弟分ですか!?うるさくて可愛いです!!!あっ!お初目にかかります!お姫さまっ!あれれっ!?お眠り中でしたか???あれ…?どうしたんです?」
扉を開き嵐のような登場をしたのはフィオリの弟。アーサーだった。片手に大輪のひまわりを掲げて正装までしている。このかた200年も生きているのにまだまだ礼儀を知らないお子さまだった。
「…あ、ああ。よく帰ったな…産んだのは我でなくサランだが…ああそうだ、お前も挨拶をして言ってくれないか…」
驚きと苛つきからいち早く立ち直ったフィオリはアーサーにこちらへ来るように促す。
アーサーは笑顔で駆け寄ると、ようやく状況を理解したようだった。
「な、なんてお姿…お姫さまはどうされたのですか?兄様…こんな痩せ細って…まさか今までのように森へ、この方も?出産までしてくれたような素晴らしい方を…?」
「…」
コクリ、と頷きフィオリはアーサーの純粋な瞳を見返す。それはサランと同じような琥珀色だ。
「そうだったのですね…では、俺が修行で培った、1番の魔法で笑顔の花を咲かせましょう!」
そういうとアーサーはひまわりを一本取り出し神経を集中させた。するとどうだろうか。金の光がぱらぱらと花から生まれ、サランへ伸びていく。
サランの荒く途切れそうだった息は正常に戻り、一本のひまわりは枯れた。
「な、なんと、、アーサー様…あなたは治癒の魔法も習得なさったのですか…?」
「アーサー!!!」
「はっ!はいいっ!フィオリ兄様!」
「ありがとう!ありがとう…」
「…わ、は、初めて兄様のお礼を聞きました…いえ、俺はこのくらいしかできないけど、帰って来た甲斐がありました!さあ、自信家の兄様らしくないですよ。お姫さまの看病をしなければ。…ね?」
「…」
「ほら、チビたちも」
「キャウッ」「ギャーウ!」
「もちろん、私もお手伝いしますよ」
「ああ…ありがとう。…」
フィオリはサランの手を握る。
サランが目覚めるまで待ち続けると。
そう決心した。
サーシャが手遅れと言ったように、無理に生かしているこの時間は無駄かもしれない…それでも待ちたいから…
「サラン、我は短気だぞ…ふっ、起きるなら早くな」
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