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カクテルは魔物
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白田は人の話し声で、三杯目のカクテルを前に伏せていた頭を起こす。なんだか見知らぬ空間に目を漂わせて、ずれた眼鏡越しに酒瓶の並ぶ棚をぼんやり見てからバーだと気がついた。
苦手な酒が進むほど、ずっと猛牛の愚痴を聞いてくれていたマスターは、カウンターの隅にいる客と話し込んでこちらに注意を払っていない。視線を近場にやれば、空いていたはずの両隣に見知らぬ男性が座っているのに気がついた。一瞬、いやしばらくの間意識がどこかへ行っていたらしい。しかも自分を挟んで飛び交うのは流暢な英語で、ふわんふわんと意識の波が上下する脳内ではいつもよりも更に難解な言語として意味を理解するのを早々に諦める。
何だか楽しそうな声につられて右隣を見る。スーツを着た赤毛の白人男性が身振り手振りで更に何かを話して笑う。それを受けて、左隣の日本人男性が笑った。
「あはは。あ、やっと起きたね。」
全く見覚えのない彼は自然な動作で白田の肩を抱き、親しげに顔を寄せて来る。
「な、なんらろ、えっとお、」
こんなイケメンの知り合いなどいない。よく頭が回らない上にだいぶ呂律も怪しい。ちゃんと喋っているつもりの白田は、ぐらつく頭を両手で支えて眼鏡の下の目をゴシゴシと擦った。
「ハイ!だいじょうぶ?」
今度は右隣の彼が背中を叩く。アクセントが日本人とは違う事に、ドラマや映画みたいだなと思って顔が緩む。なんだかおかしくて、けらけらと笑いが出る。
「ええと、だあれらっけ。」
「ロイだよ。アヤトのともだちね。」
赤毛の男性は鼻が高く、そばかすの浮かんだ色白の顔はなかなかチャーミングだ。緑の瞳が笑むのを見て、白田もヘラリと笑う。
「で、俺はこういう者です。」
と肩から手を離し、白田のカクテルグラスの近くで放って置かれた名刺をトントンと叩く人差し指。酔い潰れた白田のために、マスターが気を利かせて連絡を入れていた事など考えも及ばない。名刺の男が何故現れたのかなど分からない白田は迷惑をかけている自覚もなかった。
「う、ううん?あ、ああ!めいしのひとお!」
「そう、水上彩人。初めまして。そういう君はなんて名前?」
「しろたれす。」
「シロタレス?」
不思議な言葉を繰り返して水上が首を傾げる。
「しろた、のぼる、れす。」
「ああ、白田のぼる君。」
うんうんと頷く真っ赤な顔の白田へ、ロイが陽気に言った。
「ノボル、ほらカンパイ!」
かんぱい!と笑顔で返していつになく楽しく酒をあおる。美味しくて、美味しくて、猛牛の事を忘れてふわふわの浮遊感の中、ロイの英語混じりの話で意味もわからず笑う。白田の気分は最高だった。
「もうそろそろやめたら。」
そう水上に注意されたのに、五杯目のカクテルを飲み干した白田はそのままダウンした。
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