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烏龍茶と羊
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「ハイ!ノボル!」
入店してきたところをすぐに気づき声をかけて、ロイはテーブルで一緒に飲んでいた男性と別れて白田の隣のカウンター席へ移ってきた。
「ああ、ええっと、」
赤毛と緑の目は印象的で覚えているが名前となると難しい、思い出そうと昨晩の記憶をたどる。
「ロイだよ。ひどいなあ、あんなに楽しかったのにわすれるなんて!」
「ごめん。すごく酔ってたから記憶があやふやで。」
非難されて素直に謝る。今夜は酒を飲むまいと決心して来た白田はマスターへ烏龍茶を頼み、飲みかけのアルコールが入ったグラスを持つロイと乾杯した。
「昨日だいじょうぶだった?しんぱいしたよ。」
「あ、うん平気。ありがとう。今日は水上さんと一緒じゃないんだね。」
「ああ、いつもいっしょなわけじゃないよ。今日はべつべつ。」
「へえ。日本語上手だよね。いつからこっちに住んでるの?」
ロイは聞かれるまま、カナダ出身で仕事絡みで日本に住んで五年目、アヤトとは同じ会社に勤務している事などを話す。一方白田は小説家の助手という肩書きで、ロイには馴染みのない職業だった。
話がはずみ昨晩のように盛り上がる。ロイは酒の杯を重ね、だんだん陽気になってきた。それにしても日本人の年齢はよくわからない、特に白田は年齢不詳で28歳の自分よりも若く思える。からかいたくなる無垢さがあり、いたずら心が湧いて唇を耳へ寄せて囁いた。
「アヤトはよかった?」
その瞬間、白田は口に含んだ烏龍茶を吹き出しそうになり慌てて飲み込む。口元を濡らす烏龍茶をぬぐい、動揺をかくせないまま返事をする。
「な、なに、」
「セックスだよ。」
当然のように言われ狼狽える。この店では同性同士の情事は異端ではなく、うぶな反応を見せる白田は格好の餌食だ。さしずめ狼の群れに飛び込む羊と言ったところか。昨晩は危なっかしい酔っぱらいをガードしてくれていたマスターも付いていない。先にロイが動かなければそのうち誰かが声をかけていただろう。
「し、してないよ。ホテルに送ってくれただけだから。」
頬を赤く染め否定するのをロイは笑顔で受けた。
「かくさなくていいよ。アヤトはいいやつだけど、気にいればいろんな人とセックスして遊ぶから。ここでもそういう相手さがしてる。」
「え、」
「アヤト、リングしてるでしょ。」
左手をかざして薬指を指差す。
「ちゃんときいたことないけど恋人がいるんだよ。」
白田はその話に少なからずショックを受ける。本人からはっきりと遊びだと言われていたのに、その先の関係に淡い期待を寄せていたのだろう。
「あの。ロイは水上さんと、したの?」
「ノー。アヤトはタイプじゃないよ。でもノボルとはしたいな。昨日もかわいいって思ってたんだ。」
「あはは!かわいいってなんだよ。そんな冗談なんて誰も僕に言わないよ、ロイはおもしろいね。」
今までそんなふうに誰かに誘われた経験もなく、酒の席の戯言でもくすぐったい。それにロイが水上とは体の関係がないことにほっとしてもいた。
「マスター、ノボルにもこれと同じものを!」
ロイが自分の酒を指差して注文する。白田は断りきれずに一杯だけと約束し、その杯を受け取った。
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