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理由の検証
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遮光カーテンのわずかな隙間から明るい日差しが漏れて近くの床を照らす。普段は掃除の時くらいしか立ち入らない部屋はダブルサイズの大きなベッドを置いてもまだ白田の自室よりも広く余裕がある。そのことに対する不満など、日々の心労に比べれば大したことはなく、今更何も感じていない。
「先生。」
横向きの姿勢でじっとしたまま、背後へ呼びかけてみる。返事はなく寝息だけが耳元で聴こえる。自らの眠気はとうにどこかへ行ってしまっていて、ベッドに横たわる意味は感じられないが辛抱してこの時を待っていた。
今や猛牛は白田を抱き枕代わりにし、後ろ首に鼻を埋め、腰に腕を回し、足を絡めて熟睡している。リュックを取り戻すチャンス到来だが、部屋に置かれた鍵付きのラックにしまわれていて、肝心の鍵は男の首にネックレスとして下げられていた。
試しにそろそろと体を動かして向きを変えてみる。向かい合わせになれば、危惧した眠れる猛牛は目を閉じており、普段の様子からは考えられないほどの穏やかさだ。さらに運の良いことに留め金具は前に回ってきていて、ネックレスのチェーンを外せと言わんばかりだ。
そっと手を伸ばす。細かい作業はそんなに苦手な訳ではないが緊張で手が震える、ここで失敗すればあと何時間この状態で待つことになるのか。とても耐えられない。出来ればリュックを取り返して、猛牛が起きるまでには荷物をまとめておきたい。
あと少しで小さな穴から留め具が抜けるという時だった。
「なあにしてんのかな?」
「うわっ!」
驚いて首元に集中していた視線を上げると、すぐ近くにまばらにヒゲの生えた顔がある。慌てて手を引っ込めようとすると上から握り込まれた。
「そんなにこの鍵が欲しいのか。」
「はは、は、」
ごまかせはしないのに笑う。
「だいたい寝る時に眼鏡かけたままの時点で怪しいんだよ、お前。」
言われてから、しまったと思うがもう遅い。確かにこの部屋に連れ込まれてからずっと隙を窺っていた。ということはと、白田が目を見開く。
「ずっと寝たふりしてたんですか!?」
「あ?そんな訳ないだろうがボケ、せっかくいい感じで寝てんのに邪魔しやがって。首のとこごそごそされっとくすぐってえんだよ。俺は眠い、抱き枕はそのままじっとしてろ。」
あくびして、早くもまた寝ようとしている。
「抱き枕とか言っちゃってるし。なんなんですか。先生が起きるまでは出て行きませんから、もういいかげんにリュック返して下さい!!」
「うるせえ!」
理不尽な一喝にひっと息を飲む。しかしリュックの持ち主は白田であり、今までのように耐える必要などないと思い直す。譲歩する気が失せ、だんだんと腹が立ってきたので半眼で挑むように睨む。
「決めました、僕は今すぐ出て行きます!先生の理由なんて聞きません、だから鍵を貸してください。リュックがないと困るんです。」
握り込まれた手を振り解く。チェーンを千切り強引に鍵を取ろうとしたが、それよりも早く大きな手のひらが白田の後ろ頭をホールドした。
「ちょっと黙ってろ。」
がっつりと口を口で覆われる。キスというよりも食べられている方が近い。
「ん、んん、」
手っ取り早く黙らせると、ネックレスから白田の手が離れて体を離そうと二人の間で腕を突っ張りだす。それを物ともせずに、今度は腰を引き寄せさらに深く貪る。
「んう!」
抗議の呻きなのか白田の喉が動く。約半年側にいて、助手に対しこんな触れ方をしたことはまだなかったが、おかげではっきりしたことがある。これで退職を認めない理由の検証は済んだ。
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