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イレギュラーな日
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退職騒動から十日ほど経ち、相変わらず助手という名の家政夫業を続けている白田は、半年ほど愛用してるエプロンを着けて自分の朝食を用意していた。基本的に二人が一緒に朝食をとることはない。
黒谷の生活リズムは締め切り時を除けばだいたい決まっていて、午後から起き出し、翌日の朝日が昇るころ眠りにつく。一方白田は、午後十一時には就寝し午前七時前に起きる。なので、半日近くは顔を合わせない。つい最近まで、猛牛に対し恐怖心を抱いていた白田にとって一番心が安らぐ時間帯でもあった。
精神的負担が減ったとはいえ、人目がないというのはやはり気楽なもので、一人きりの時間と空間にリラックスする。手慣れた様子で熱したフライパンにベーコンを置き卵を割り入れる。鼻歌を歌いながら、いつもの手順で水を入れ蓋をしようとした。
「おはよ。」
いきなり肩に顎を乗せてきた男がフライパンを覗き見しながら言う。
「うわ、びっくりした!」
料理に集中していたため、全く人の気配に気づいていなかった。持っていた蓋を落としそうになる。
「俺のも朝食よろしく。」
いつもだったら寝ているはずの黒谷が伸びをしながら去って行く。今まで起きていたのだろうかと黒いTシャツにスウェットパンツを着た後ろ姿を見送り、徹夜明けはひどく不機嫌で朝食など欲しない男が珍しいとも思う。
「まあ、いいか。ベーコンエッグ追加しなきゃな。」
もう二人の間に以前のような緊張感はない。深くは考えず、近くの冷蔵庫から材料を取り出して二人分の朝食を用意した。
朝、昼、晩と二人で揃って食事をしたのは白田がここへ来てから初めてだった。午後九時、夕食の片付けや風呂の準備を終え、リビングへ顔を出して黒谷へ声をかける。
「先生、お疲れ様です。何か手伝うことありますか?」
ここで何も頼みごとをされなければ助手の仕事は終了し、白田は風呂へ行き、朝まで自室へ引きこもる。しかし黒谷はこれからがのってくる時間なので、大抵はパソコンに集中していて上の空で返事するか、適当に手を振ってくることが多い。だが今日は違った。先程まで使用していたパソコンの画面は電源が落ちていて、息抜きなのかビール片手にテレビを見ながら、資料に半分占拠されたソファーでくつろいでいる。
「おう、お疲れ。お前も飲むか?」
「いえ、僕はアルコール苦手なので遠慮します。先生、今日はもう仕事終わりですか。」
「んー、まあな。」
珍しいこともあるもんだと思うが、今日は朝からイレギュラーが続いている。いつもなら、寝起きにシャワーを浴びている黒谷が今日はそれもしていないことに思い当たった。
「お風呂わいてますよ、お先にどうぞ。」
「お前、先に行け。俺はこれ飲んでから入る。」
「そうですか。じゃあお先に失礼します。」
ぺこりと頭を下げてリビングを出る。着替えを取りに自室へ向かった。
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