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くすぶりだす
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二十四時間とは長く、時に短い。朝も昼も夜も一緒。他人とこんなに時間を共有することは初めてで、白田はなんだか息苦しさを感じはじめていた。
「ああ、トイレ落ち着く。」
用もないのに狭く暑苦しいトイレの便器に腰掛け、つかの間の安らぎを得てほっとする。あの夜、先生専用の抱き枕になってからはよく眠れない日が続いていた。反して黒谷は絶好調のようで、以前は気乗りしなかった昼間の執筆も順調にこなす。
起床時間は同じ、食事は揃って取るのが当たり前、たまに二人で入浴し、夜は必ず一緒に寝る。それでいて、家族でも友人でも恋人でもない距離感を保つ。それが助手の仕事として求められている現状だった。
「はあ。」
ため息と共に汗を拭う。寝不足と暑さで、まともな思考ができなくなっている気がする。助手ってなんだろう、ここ半年くらいの疑問がぼんやり浮かぶ。
ポケットに入れていたスマホの存在を思い出し、少し前に届いていたロイからのメールを見た。荷物を届けてくれたお礼の電話を入れたことで、今では時々連絡を取る仲になっている。
「そっか、そうだ。勤務時間後なんだから夜出かけるのは自由だろ。」
名案だと思い、すぐさま返信する。今はとにかく、一晩だけでも先生から離れていたかった。
「先生、今日は友人と会う約束なので夜は出かけます。」
昼食後、席を立とうとした黒谷へさりげなく切り出す。最近は機嫌も良く、荒ぶる猛牛は鳴りを潜めている。だから、この件を伝えるのに多少の勇気は要したが、もし駄目だと言われても反論する気すらあった。
「ふうん。お前、友達いたんだな。」
そんな失礼極まりない返しにイラッとする。
「ええ、おかげさまであまり会えないですが。」
皮肉をぶつけられても相手はなんのダメージもくらってない様子で、テーブルの上に置いてあった煙草を引き寄せた。
「いいんじゃねえの。行ってこい。」
一本咥え、慣れた仕草で火をつける。深く吸い込み煙を吐き出すと、そのまま席を立ってデスクへ移動し、資料を手に取り目を通しはじめた。
あっさりと許可され、白田は勢い込んだぶん少し拍子抜けした。
「夕食は冷蔵庫に入れておくのでちゃんと食べて下さいね。あと、遅くなると思うので先に寝てて下さい。」
ちゃんと聞いているのか定かではないが、背を向けたまま適当に手を振って返事している。少し見える横顔、揺れる煙。伝えることは言い終えたのに、その広い背中から視線を外せない。
心のどこかで不満がくすぶる。引き止められることを期待する自分がいたことに、やっと気づいた。
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