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無意味な計画
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宣言通りにラーメン屋から直帰した白田は、近くのファミレスで深夜まで時間を潰してから、住み込み中のマンションへ向かった。そっと玄関を開け、ただいま戻りましたとつぶやき程度の小さな声を出す。そんなに気遣わなくてもいいのかもしれないが、万が一でも眠れる猛牛を起こしては計画が無駄になる。
静かにスニーカーを脱いで脇に寄せ、忍び足で自室へ進む。ここまでは順調に進んでいる。あとはシャワーを浴びて、久し振りに一人の時間と独り寝を楽しむだけだ。そうすればここ最近の疲れも取れて、頭もスッキリするに違いない。
鍵などない自室のドアを開け、近くに取り付けられた明かりのスイッチを押そうと壁へ手を伸ばし、中から漂う冷房の風に違和感を覚えた。
「っ!!」
驚きすぎて声もない。暗がりから突如現れた手が、無防備な白田の手首を掴んで中へと引っ張り込む。足が浮き、視界が変わる。痛みは感じなかった。気がつけばずれた眼鏡越しに、暗い天井を背景にした表情の見えない覆い被さる男。それが誰かはもちろん分かっている。
「先生、」
戸惑いが声に出る。大きな体で、床の上に仰向けに押さえ込まれていて身動き取れない。何を考えての行動かも読めず、何故白田の部屋に居るのかも謎だった。
「遅い。」
「そうですか。」
一言だけの文句を受け止めると、肩を抑えていた手の力が抜けた。そのまま白田の上から退き、暗い部屋をさっさと出て行く。やがて黒谷の部屋の扉が開く音がし、閉じた。何の説明もないままだったが、白田は何事もなかったように部屋の電気を点けて着替えを取り出すと予定通りに浴室へ向かった。
手早くシャワーを済ませ髪を乾かし、予定に反してノックもせずに黒谷の部屋へ入る。最近はいつものことで、もはや習慣付いてしまっている。
「お待たせしました。」
言葉と共に広いベッドの横に立てば、無言で薄い掛け布団がめくられ中へ入るように促される。寝る前の習慣で、かけていた眼鏡を外して枕元に置く。ベッドに膝をついてひんやりしたシーツと布団の隙間に滑り込むと長い腕が絡み、当然のように胴体を引き寄せられた。
息がかかるほどの距離に安堵と不安を感じる。
「遅えよ。」
「はい。」
また一言だけを互いに交わす。向かい合う白田の膝を割り、足が入り込む。Tシャツの上からゆっくりと手のひらが背中を這い、肩甲骨のくぼみを確かめるように撫でる。くすぐったくて、白田が小さく声を漏らして逃れるように上体を反らすと、その首筋に鼻先が埋まった。その位置が気に入ったのか留まり、穏やかな呼吸が薄い肌に当たり始める。
「僕って、助手ですよね。」
もう眠りの中にいる男には届かないと知っていて問う。また明日も寝不足の体を引きずるのかと、諦めのため息が出る。こんな距離感を共に過ごし、何の気持ちの変化も求められないのならば、もう助手を続けるのは難しいのかもしれない。
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