アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
― ep.2 ―(5)
-
◆◇◆◇◆
「おーしっ、全部片付いたーっと」
先輩達を見送って、俺と亜稀だけ美術室に残って後片付けを請け負った。
いいのに〜と笑われてしまったけれど、
副部長に言わせると「軍隊式に慣れてしまっている」俺なので、
せめて仮入部の間だけでもこのぐらいはさせて欲しいと押し切って残らせてもらった。
自動的に亜稀も残ることになってしまうので、巻き込んで悪かったなと思ったけれど、
亜稀の顔を見るととても楽しそうにしているので、気にしなくてもよさそうだ。
「それじゃ、俺達も帰ろっか」
「うん…」
俺は鞄を持ってドアの方へ歩き出そうとしたけれど、
亜稀がその場から動こうとしていないことに気づき、もう一度鞄を置いた。
「亜稀? 帰らないの?」
「…ううん、帰るんだけど、
………ねぇ、あのね、汐海?」
「ん?」
帰ると言いながらも、何か言いたいことがありそうな亜稀の様子に、
俺もその場に落ち着き直して耳を傾けることにした。
「あのね、」
・
・
・
「ぼく、中学の時、部活入れなかったの。
本当はみんなみたいに、部活で青春したかったんだけど…
きっと何部に入っても、『なんでお前来るんだよ』って、
煙たがられるのわかってたから。
…クラスに居る時みたいに」
「――」
「何部にって言っても、ぼくが入りたかったのは美術部だけなんだけどね。
…でもね、美術部に入ったりしたら、
ぼくじゃなくて、ぼくの絵や画材に何されるかわかったものじゃないから」
「え…――」
そう言うと亜稀は、机の上に綺麗に整頓して置かれた自分の画材に目をやった。
「自分がいじめられるのは、
小学校からだし、もう慣れっ子だったから別にどうでもよかったけど。
でも、大事な画材や、一生懸命描いた絵が滅茶苦茶にされたりしたら、
それだけは絶対に耐えられないから。
…ぼくには絵しかなくて、いじめからのはけ口も絵で、
それを奪われたら、何もなくなっちゃうから……
部活に入らない、学校に大事な画材は持って行かない、美術の授業は真剣にやらない。
それがぼくにできる、大事なものを守る方法の全てだったんだ」
「亜稀………」
亜稀が中学まで孤独に過ごしていたのは知っていた。
まだ知り合って間もない俺に、何でも包み隠さず話してくれたから、
話を聞いた範囲で、想像できることだけ想像して、
大体のことを理解したような気になっていた。
…でも、そんなのはほんの一部に過ぎなくて、
亜稀の抱えていた孤独も、絵に対する真剣な気持ちも、
俺はまだまだ何も知らないんだとわかった。
「――だから、
今、急にこんな幸せになって、どうしたらいいかわからないんだ」
「……
え?」
突然、予想外の言葉が投げられて、
俺は反射的に亜稀の顔をじっと見つめた。
すると、さっきまで過去を思い起こして悲しそうに伏せられていた大きな瞳が、
困ったような笑みの形に細められた。
「ぼくは、みんなのこと――特に、汐海のこと。
あんまり好きになりすぎないようにしなきゃいけないから」
「――?」
好きになりすぎないように…?
それって、どういうことだ……?
「亜稀、それ、何かよくわかんないけど、
もしかして失った時悲しいからとか、そういうこと?
それだったらそんな心配は必要ないよ。
俺は亜稀から離れて行ったりとか、そんなこと…
「違――……ううん、ありがとう。
そんな風に言ってもらえるだけで、充分嬉しい」
「………」
「ごめん、話し込んじゃって。
…帰ろう!」
「亜稀……?」
その時の亜稀が、本当は何を隠していたのか……
気になったけれど、
俺にはとても追求することはできなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
13 / 36