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― ep.5 ―(1)
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...【side change】
今日ほど自分の猪突猛進さに驚いたことはなかった。
というか、全く知らなかった。
俺はもっとずっと慎重で、危ない橋は回れ右、決められたことを決められた通りにやって、良くも悪くも目立たない。そういう当たり障りのない平凡な自分と、この先もずっと付き合い続けていくものだと思っていたんだ。
いや、確かに時々、好きな事に夢中になって突っ走ることもある。
プロ志望の奴らばかりの中学美術部に飛び込んだのもそうだし、子供の頃には当時流行っていたカードゲームの激レアカードを賭けて友達と度胸試しをしたものだけれど、その内容は今思い返せば結構ゾッとするものが多かったような気がする。
でも、そんな中でも割と世間体は気にしていたし、何より他人に迷惑をかけることはしないように心掛けていた。
だから、まさか。
まさかそんな俺が、自分の衝動のままに後先考えず暴走して、よりによって一番お世話になっている諸先輩方や友人までを巻き込んで、彼らの貴重な部活動の時間を侵食してしまうなんて、どうかしていたとしか思えない。
ああ、どうかしていたのは間違いない。
…いや、現在進行形で今だってどうかしている。
それでもやらかしてしまったことは取り消せない。
周囲を気にせず暴走してしまった自分………“5秒前の自分”に、たった5秒でここまで冷静に成り果てた現在の俺は、頭の中で「どうしてくれるんだよ」と毒づくことしかできなかった……。
◇◇◇◇◇
今日はしっかりと段取りを決めていた。
いつも通りに亜稀と一緒に部室へ行って、いつも通りに真面目に?美術部の活動をして、
――もし今日、砂原先輩が部室に来たら。
部活が終わった時、先輩が帰ってしまう直前に呼び止めて、……「大事な話がしたい」と言って、二人きりになれるところへ連れ出して。
そこで、誰にも聴かれないように、美術部の先輩方にも知られないように、人知れずこの思いの丈を伝えようと思っていた。
結果がどうであっても、誰にも知られなければ、「男に告られた」なんていう黒歴史で砂原先輩の面子に傷が付くこともないし、その日の部活ももう終わっているのだから、すぐに戻っていつも通りに部室の片付けをして帰れば、誰にも迷惑はかからない。
勿論戻ってすぐ亜稀には結果報告をして、これからも喜びも悲しみも共に分かち合っていこうではないかと固い友情を誓い合う。
……そんな段取りを俺はちゃんと考えていたんだよ。
◇◇◇
「おはよーっす!」
「――っ!」
「あ、砂原くん、いらっしゃ〜い。
…? あれ、椎崎くん、どうかしたの?」
「…あ……――」
――なのに。
部室に入ってきた彼の姿を見て。
…見て、ただそれだけで、胸の奥から熱い何かが込み上げてきて……。
一瞬、本当に混乱した。
彼のほうは何も変わっていない。制服を適当に着崩して、少しチャラそうに見えるけれど人懐っこい笑顔のおかげで苦手意識を持たせない、いつも通りの砂原先輩。
なのに、自分の気持ちをはっきりと自覚してしまった俺は、昨日の俺ではなくなっていたから……。
目の前の彼を、《好きな人》だとしっかり認識して見てしまった俺は、――その華やかな美しさにクラっとして、その瞬間、何かが爆発してしまった。
「――っ! 砂原先輩!!」
「…? ん??」
石膏像の横には、蝋石を片手にした副部長。
奥から準備室の扉をくぐって来た、資料の束を抱えた部長。
窓際の流し台で水バケツに向かって蛇口を捻りかけたままこちらを振り向いた亜稀。
イーゼルに向けていた視線を、顔だけ少し傾けてこちらによこした、…阿部先輩。
全員勢揃いしている美術室。
皆が俺と彼に注視して、俺の発する言葉に耳を傾けた時。
俺は、全員の注目を一挙に集めた状態で――心のままに叫んでしまった。
「俺っ……、先輩のことが好きです!!」
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