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「ん?母さんから…?」
昨日買ったカレーのレトルトを食べていると母さんから電話が来た。
「どうした?なんか用事?母さん?」
『どうした?は私の台詞なんだけど』
俺の母親…三上 美咲(ミカミ ミサキ)は著名なピアニストで日夜世界各地を飛び回っている。
『陽…あなた、昨日の夜、電話を取らなかったけど…?』
少し咎めるような口調の母さんに俺は頬を掻いた。
「あーずっとヴァイオリンの練習をしていた」
『…だと思った』
母さんは俺の答えを聞いて苦笑いをする。
『あなたのヴァイオリン狂いは相変わらずね』
ヴァイオリンを弾き始めると周囲が見えなくなる俺のことを知っている母さんはやや呆れ気味だった。母さんと近況報告をして通話を切った。多忙な身でありながらありがたいことに俺のことを気遣い母さんは定期的に電話をかけてくる。朝ごはんを食べ終え、俺は飽きもせずにヴァイオリンの練習を始めた。
…………。
ヴァイオリンをいつ始めたか覚えていない…だけど、いつの間にかヴァイオリンに心を奪われていた。
「相変わらずヴァイオリンを弾くのが好きだな…陽は」
小学3年の5月…すでにヴァイオリンを習い始めていた僕は家の防音室でヴァイオリン練習をしていると、父が防音室に入って来た。春の日だまりのような温かい笑みを浮かべるのは俺の父の赤城 浩司(アカギ コウジ)はドイツ人のハーフで世界的なヴァイオリニストで僕自慢の父だった。
「少し疲れたんじゃないか…休憩しよう」
父さんはサイドテーブルにコーヒー豆の入った瓶とコーヒー豆を砕くためのミル、コーヒーメーカーとケトルとスコーンを置いた。
「コーヒーはブラックで良いか?」
「うん…」
父さんはお気に入りのコーヒーショップで買ったコーヒー豆をミルで砕いて、コーヒーメーカーにセットしてお湯を注いだ。マグカップふたつにコーヒーを注いで片方を僕に渡す。
「はい、根を詰めるのも良いけど、程々にね?」
「……はい…」
僕は集中すると周りが見えなくなる悪癖がある。特にヴァイオリンを弾いていると食事を忘れてまでヴァイオリンにのめり込んでしまう。
「しかし、陽がまさかこんなにヴァイオリンに嵌まるとはな」
父さんはヴァイオリンに夢中になっている僕に感慨深そうに頷く。
「さあ、スコーンも食べなさい」
僕は父さんのお気に入りのコーヒーショップのスコーンを食べる。コーヒーが少し苦めだからかスコーンは甘めの味付けだった。父さんがいつも通っているだけあってスコーンはさくさくしていて美味しかった。
「そろそろ私は仕事に向かうが、陽はもう少し休みなさい」
父さんはスコーンを食べ終え、コーヒーを流し込むと仕事に向かった。音楽大学の教授という多忙な身の上にも関わらず、息子の僕を気遣かってくれる父に感謝しながら僕は練習を再開した。
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