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何て酷い顔をしているのか、彼の方が入院するべきだと本気で思った。
「…どうしたの?どこか体の具合が悪いの?びょ、病院に、病院に行こう!」
焦る僕に彼は少しほっとした様な顔をして首を横に振った。
「元気そうで、本当に良かった。俺が言えた事じゃないけど、本当に良かった…」
そして涙を流し始めた彼を、僕は無理矢理立たせ家の中に入れた。
薄暗い玄関で、僕の荒い息遣いがやたらはっきりと聞こえる。
「ごめん。退院したばかりなのに、大丈夫か?」
「だ、大丈夫…」
心配そうに伸ばされた手は、僕に触れなかった。
「謝りたくて、顔が見たくて、こんな事、迷惑だって本当は分かっていたけど…」
息を整えながら、彼をじっと見つめる。
彼は目が合った途端、眉を下げた。
「痩せたな…」
「君も…」
彼は苦笑を浮かべながら、片手で顔を覆った。
「浮気、した。一回じゃない、何人かも覚えてない。ごめん」
知ってるよ、とは言えなかった。
声を震わせ、今にも泣き出しそうな彼に何も言えなかった。
「好きだ。お前が、好きなんだ」
僕は目を見開いた。
「お前に本気になりたくなかった。お前がゲイなのに直ぐに気付いて、可愛い奴だなって、付き合ってみたいなって、正直、軽い気持ちだった。それでも好きだったし、今も好きだけど、怖くなったんだ。お前を好きになればなる程。ただの遊びなら男でも良かったけれど、本気になったら、選べるはずの普通の人生に戻れない様な気がした」
言われた事に、頭がついていかない。
彼は、僕が好きだったのか。
「お前の体の事は、本当に心配していた。ずっと俺が傍にいて守ってやりたかった。別にセックスなんて出来なくても良かったんだ、お前がいれば。それなのに俺は、お前の体の事を、逃げ出す理由にしようとしたんだ」
僕の体のせいではなかった、それに何故か少しほっとして、ならどうしてなのか考えなければいけないと思った。
彼は僕を好きだと言い、でも僕との関係が怖くて逃げ出したかったと言う。
恋人なんていた事ない僕は、同性の恋愛の難しさも、二人の未来についても、本当はよく分かっていなかったように思う。
僕達は、簡単には人に認められないような関係で、そして何かあればきっと壊れてしまう関係だ。
僕だって、それが分かっていたから、諦める事を選んできたのに。
嬉しくて、幸せで、分かろうとしていなかったのかもしれない。
確かに彼は勝手で、酷い事をした。
でも僕は本当に単純で、諦めると決めた想いは、少しずつ熱を取り戻している。
彼は顔から手を外し、少し姿勢を正して僕を見た。
「許してもらえない事は分かってる。それでも、お前が好きなんだ。だから、頼む。もう一度、頑張らせて…」
気付けば彼の言葉を遮り、少し痩せてしまった彼の胸にしがみついていた。
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