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電車
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「お金貸して、お助けマンさんお願い」
「...うーん、すごいねきみ。全然構わないけど、初対面でお金かぁ...さっきの不良とやってる事があまり変わらないんじゃないかな」
「大丈夫、僕は多分ちゃんと返すからあの人たちとは違う」
「その『多分』が無意識なのかわざとなのかは知らないけれど、それが俺を余計不安にさせるんだよ、全く自分を庇えていない」
そう言うと、くす、と笑って切符を買ってくれた。
なんだかんだ言って、僕のことを助けてくれたりお金を貸してくれたりと、お人好しなのかも知れない。
損な性格だ、と思うのは流石に傲慢である。自分が助けて貰っているというのに。
人の多い車内で、人の波に押されるようにして入口近くの柱に両手でつかまる。
この時間は通勤・通学をする人で、電車はぎゅうぎゅうとはち切れそうだ。
そのせいで彼との距離は近く、何も話さない無言の時間は妙に居心地が悪い。
僕がそわそわとしていると、彼は小さく首を傾げた。
「えっと、お助けマンさん」
「うん、もうそろそろ名乗るね。俺は星雲潤。潤って呼んでいいからね」
「分かりました。...お助けマ」
「潤です」
なんとなく名前で呼ぶのは気恥ずかしく...といっても別に名前で呼ぶのが嫌だった訳では無いのだけれど。
1回呼び方を決めてしまうと、そこから変えるのは少し勇気が必要だったりするのである。
「...潤さん、さっきはありがとうございました、たくさん。」
「ん、まぁ絡まれてたら助けたくなるのが男ってもんだよね」
「じゃあ絡まれてた僕は男ってもんではないんですか?」
「別にそうは言ってないよ...ふ、ごめんね、カッコつけたがりなんだよ俺は」
僕が突っかかると、潤は軽く謝って流した。
僕も本気で怒っているわけではなく、ただの軽口なのでこのくらいに流してくれた方がありがたい。
人混みの間から窓の外を見ていると、しばらくしてから潤が、ふ、と思い出したように尋ねてきた。
「迷子ちゃんの名前は?」
「その呼び方もなかなか気持ち悪いですね。...僕は森川優友です。」
僕が名乗ると、潤はふむふむと頷いた。
「ゆと」
「違います、ゆ、う、と!」
「ゆと!!」
違うっつってんでしょう!
電車の中ではあまり大きな声も出せないので、顔に絶望の表情をのせる。
しかし相手はそれにも気付かない様子でただただ嬉しそうである。
これによって、僕の彼に対するお助けマンのイメージがだいぶ崩れてしまった。
酷いものだ。
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