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バイト少年①
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荷物の整理もある程度終わり、持参してきた本を読んで時間を潰していると古谷が昼食の用意が出来たことを言いに部屋に入ってきた。
それに返事を返して下の階へ向かうとテーブルの上には様々な食事が並べられていて、椅子の横には古谷が唯のために椅子を引いて座るのを待っていた。
「唯様、此方へどうぞ」
「は、はい……」
古谷にうながされて椅子に腰掛けると、目の前にお皿と食事に必要なナイフにフォーク、そして箸が置かれた。
「どれでもお好きな物を食べて頂いてかまいませんので、ごゆっくりお食事ください」
そう言うと古谷は一礼して部屋を出て行った。
一瞬、呼び止めようかと手を伸ばした唯だったがその手は空を掴んで落ちた。
古谷が出て行ったあとの部屋の中はしん……と静まり返り唯一人が残される。
「…………いただきます」
唯は呟くように言葉を吐き出すと出来たばかりの食事に手を伸ばした。
(……温かい…けど、味、しないな……)
一人で食べる食事は淋しかった。
食べ物は温かくて、美味しいはずなのにテーブルに並べられた物を口にすればするほど心の方が冷めていくように感じた。
結局、唯は半分ほど食べただけで後は残してしまった。
食事を終えて自室へ戻って来ると部屋のベットへと横になった。
あの後、半分も食べていない唯のことを古谷が心配そうに見てきたので笑って、大丈夫だと告げると何かあれば遠慮なく言ってくださいね。と言って優しく微笑んでくれた。
古谷のその優しげな笑顔を向けられると、冷めていた心がじんわりと暖かくなった様な気がして唯はほっ、と息を吐いた。
離婚する前の唯の母親は厳しい人で、唯が勉強やちょっとした事で失敗した時は眉間にシワを寄せると、苛立ったような声で何度も唯を叱責した。
『貴方はそんなことも出来ないの?』
『みっともない。自分の事くらいちゃんと出来る様になってちょうだい』
母親の苛立つ声と自分に向ける嫌悪が混じった瞳を見るのが、唯は嫌で嫌で仕方がなかった。
父親の方は初めから唯に冷めた目を向けるだけで、一切関わって来ようとはしてこなかった。
家ですれ違う時も目を合わせてくれようとはせず、そんな態度の父に思い切って、一度唯の方から話しかけたこともあったのだがまるで居ない存在のように無視をされた。
物心ついた頃から唯の家はそんな雰囲気で、両親の間には何か深い溝があるのを唯は幼いながらも感じ取っていた。
小さい頃の思い出を思い出してみても、家族で何処かに出かけた記憶もなければ、両親二人が楽しそうに笑っている顔など一度も見た覚えがなかった。
(……母さんは僕のことが嫌いだったんだろうか)
いつも自分に嫌悪と苛立ちを浮かべる母親の顔を思い出し、胸の奥が潰されたようにぎゅっと萎んだ。
両親が離婚した際、母親からは一言も告げられず父親に引き取られた。
父親は母親と離婚すると直ぐに別の女性と再婚した。
そして、その女性と暮らすには邪魔になる唯をこの別荘へと移したのだ。
父親のその態度に本当に自分が愛されていないことを理解した唯は何も言わず、大人しく別荘へと身を移した。
ベットに寝そべったままの身体を起こすと唯は入り口近くの窓へと近づいた。
これ以上、父親や離婚した母親のことを考えていると寂しさで胸が潰れてしまいそうだったからだ。
窓の外は蒼い空に白い雲が気持ちよさそうに浮かんでいて、屋敷の庭に咲いた花が風に吹かれているのが見える。
そんな柔らかな景色を見た唯は沈んだ心が少しだけ軽くなった様な気がして、無意識に微笑んでいた。
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