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「家族とは会ってない。だから私が倒れて入院していることも、腫瘍のことも話していない」
先生が全部話してくれた。どうして家族に会ってないのか、暮らしてないのか。
先生はまだ俺たちが生徒だった頃は、妻子ともに一緒に暮らしていた。
でも病弱だった奥さんは小学生だった子供と先生を残し他界。最初は2人で暮らしていた。
でも仕事と子育て。両立できる器用な先生ではなかったし、子育てはほとんど奥さんに任せっきりだったため、勉強以外にろくなことを教えることはできなかった。
そのため家庭を支えてくれる人が必要になり、息子のためだと思って息子が中学生になると同時に再婚。再婚相手には息子より年上の子供が。
これで仕事に専念できる。兄弟も母親もいる環境なら寂しくないだろう。
そう思ってた。
だが。
自分の息子を溺愛している母親は、最初は2人のことを同じくらい愛情を持っていたが、次第に自分の息子だけに愛情を注ぐように。
その理由は前妻に似ている。最初はそれだけ、ただの前妻への嫉妬だけだった。
離婚した後に聞いた話、実は前妻と後妻は高校から仲が良かったのだが、男性関係のことでこじれてしまい、連絡も会うことも一切なかったと言っていた。
でも理由はそれだけではなかった。
再婚して1か月ほど経ち息子たちが仲良くなってきた頃、たまたま兄の方の部屋が開いていて覗くと。
「え……」
「そんな、関係に……?」
「…私でもいまだに信じられない。まさかそんなことになっているとは思わなかった」
後妻が目にしたのは息子たちがキスをしているところ。
それ以来完全に後妻は弟の方、先生の方の息子を嫌うようになったという。
その話を聞いて一度息子と話してみた。でも当の本人は頭でダメだとわかっていても、兄の愛、いや執着を拒めなかったらしい。
それを知った先生は兄の方が受験生になったとき、地方の高校に行ってもらうように奥さんに説得した。
最初は兄もどうして弟と離れなきゃいけないのかと地方受験を拒んでいたが、母親が何とか説得し、大学も弟に近づかないようにしてもらった。
先生と奥さんが離婚したのは弟の受験が終わった後。その前から息子たちのことで家庭は崩壊していたが、せめて弟のためにも高校入るまでは、と思い別居状態ではあったが離婚はしなかった。
弟の方が高校に入っていたときにはもう教職をやめ、また以前のように実の息子と一緒に暮らしていた。
でも以前のように、2人で暮らしていたときのように戻るのは無理だったようで。
先生は息子の傍を離れ、家とお金だけ置いて息子の傍を離れた。
「私は精神的に参っていた。仕事からのストレス、女子高生との問題。慣れない家事や息子のこと。耐えきれなかった。だから息子の前から姿を消した。逃げたんだ」
「…それからの息子さんは……?」
「家を引っ越してないのなら場所はわかる。お金も毎月振り込んでるから生きているのは確か。
でもたまに家に様子を見にアパートに行っていたが、帰るのが遅いのか家にいない時の方が多くて……そこで頼みたいことがある」
頼み……?
「何ですか?」
「過保護なのかもしれないが、息子の、梓の今の状況を教えてほしいんだ。
仕事で忙しいのも、教え子に頼むことでもないのは承知だ。でもまた息子にあいつが現れたらと思ったら……」
あいつ……?
「あいつ…とは?」
「義理の息子、前橋幸。今は母親の旧姓を使ってると聞いた。こう、幸はまだ梓のことを想い続けてる。
梓の方はどう思っているのかはわからないが。私は何としても会わせたくない。梓のためにも」
「…わかりました。少し時間をください。またこちらに伺いますので今日は失礼します」
「わかった」
俺と染谷は病院を出て仕事に戻った。
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