アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
悪く言えば妥協
-
(悠介side)
「・・・遅い」
机の上に置いたスマホの画面を見ながら呟く。
もう夜の11時。
さっき混乱した勢いのまま『一人にしてほしい』とか言ってしまったのが夕方5時とかそんなもので・・・。
余りにも遅すぎる。
今までも遅くなることはあってもアルバイトだし、今日は昼勤のはず。
俺の言葉を額面通りに受け取ったとて、『しばらく』の範囲が広すぎるだろ。
「・・・久我さん」
着の身着のまま家を出た久我さんが心配になって家を出たら、
「・・・どうしたの?悠介くん」
「あ・・・かし、はらさん・・・」
柏原さんが、家の前の柵(2階なので転落防止用の柵)にもたれて俺の方を振り返った。
ずっと外にいたんだろうか、何で・・・?
っていうか今、柏原さんと呼べばいいのか恭平さんと呼べばいいのか分からん。
出来ればあんまり恭平さんと呼びたくない。
もはやトラウマだよ・・・。
それか脅迫。
「久我さん・・・見てないですか・・・?帰ってこなくて・・・」
「ん~?知らないなぁ。そんなことより家においでよ」
そんなことって・・・。
つか行けねえよ、あんなことがあった後に。
何で今呼び込みをかけた?
「あの・・・俺・・・」
「ていうか、さ・・・また『久我さん』なんだね」
すぅ、と細められた目で見られると、背筋が凍った。
あ、怒ってらっしゃ、る・・・?
何で・・・?
「ッ!!」
「俺の前でよく言えるねえ?懲りないなあ」
腕を掴まれ反転させられ、玄関のドアに押し付けられた。
何だこのイカつい壁ドン。
「ん・・・でも俺・・・やっぱ俺久我さんが心配で・・・!」
かなり怖かったけど、柏原さんを振り切って階段を駆け下りる。
戻ってきたら何をされるか分かんないぞ・・・。
「あ、ゆーすけくん・・・」
後ろで柏原さんの声が聞こえた。
<***>
とりあえず人のいそうなところを探し回る。
コンビニとか、ファストフード店とか。
『ナクドナルド』とか『餃子の金将』とか探したけどいない。
飲食店じゃなく、パチンコとかかもと思って行ってみたけど、未成年は敷居を越えることができなかった。
久我さんのアルバイト先・・・は、知らないし・・・。
「・・・全然だな」
思わず独り言になって口からこぼれたのは、同居人に対する無知さを自覚した言葉だった。
全然知らないんだ。
久我さんのこと。
嗜好も、思考も何一つ。
見計らったように雨が降り出した。
重く垂れこめた雲から、すすり泣くように。
「久我、さん・・・」
服にシミが広がっていく。
雨宿りしようと、閉まった店の軒先へ向かっていくとそこには
「・・・っ」
いた。
久我さんではないが。
かつて久我さんと一緒に俺を追いかけてきた―ヤクザの男たちが。
なんのイタズラか嫌がらせか、笑ってしまうほど体よく、軒先の脇、路地裏に数人がいるのが見えた。
でも今までで一番近い存在かもしれない。
アテもなく彷徨う(さまよう)より、少し情報を得られるかもしれない。
とはいえ、進んで関わりたくはない方々なので、
相手に気付かれないように近付き、息を殺して聞き耳を立てた。
「・・・だろ・・・じで・・・ぁあ」
何か会話しているらしい。
ぼそぼそとした声が聞こえる。
「竹垣の野郎・・・」
「ッ!!」
それだけは、その名前だけはやたらとハッキリと聞こえた。
竹垣。
それは俺が今まさに探している人物の別の呼び名だ。
「こんなもんで組を抜けられるだなんて思ってねえだろうな、アイツ・・・」
一度意識を向けると、さっきよりもずっと聞き取れるようになった。
人間ってすごい。
「絶対見つけ出してやる・・・つか、まだ見つかんねえのか」
「今探してるところで・・・」
「チッ!!」
ガガン!!
と、アルミか何かのゴミ箱?を思いっきり蹴るヤクザ。
キレる若者ってこういうことか。
まあ、俺より年上なんですけど。
八つ当たりはしちゃいけないって習ったぞ?
「・・・つか久我さんヤバいんじゃね?」
俺のほかにも追っかけがいたなんて。
しかも俺よりも熱烈だぞ。
ヤバいファンのソレだな。
なんて、ふざけてるのは頭の中だけで、身体は
1.とにかくここを離れて
2.先に久我さんを見つけて
3.今の状況を教えなきゃ!
となっているわけで。
なんとなく、視線は男たちの方に注ぎつつ、身体が先行して路地から離れよう、というところで
カランカラン・・・。
「あ・・・」
「あ”?」
まるで誰かが仕掛けたかのような、ヤラセのような展開が待っていたのだ。
<***>
音の正体―足元に転がっていた缶を急いで蹴り飛ばし逃げようとしたところ
「おいお前」
「ひぃっ・・・」
あっさりと俺は男たちに見つかってしまった。
なんて安い展開なんだ。
C級すぎる。
「今そこで何をしてたんだオラ」
語尾に威嚇を入れるまでが早い。
不思議ちゃんキャラの語尾設定みたいだ。
そう思ったらちょっと可愛く思えてきた。
「早く言わねえと殺すぞゴラ」
気のせいだった。
「な、なにも見てないですし聞いてないですぅううう」
「何か見たのか・・・つか聞いてやがったのか・・・」
「あっ、ちが・・・」
凄え勢いで墓穴を掘ってしまった。
穴掘りチャンピオン間違いなしだな!
「つかお前どっかで・・・」
「へっ・・・?!」
ヤバい、顔バレしそうだ\(^o^)/
「あっ、コイツ確かコタニですよ!!ホラ、竹垣と追ってた・・・!」
「あっ!!」
アッ・・・/(^o^)\
「捕まえろ」
「うっす!!!」
「ギャアアアアァアアアアアア」
「うるせえな、布噛ませとけ」
「うっす」
従順な部下をお持ちで。
でもそんなことより今俺は犯罪に巻き込まれてないか?
あ、気のせい。
じゃ、大丈夫・・・なワケないだろどうすんだよ!?
「ふぐッ!!!?ぅ・・・ぅうう!!!」
宣言通り布を噛まされた。
そして路地裏に引き込まれた。
布が水分を奪い、吐きそうである。
「今は殺すな。こいつから情報を聞き出す」
「うう!!?ふぅううう!!!」
雨のせいもあって人通りはなく、この道をチョイスした俺を全力で罵りながら(ののしりながら)、俺は男たちの黒のワンボックスに乗せられたのであった・・・。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
18 / 44