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泣き疲れるのに疲れたりして
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二人、ボロボロになりながら家路についた。
通行人が見たら一発で通報沙汰になるであろう光景だ。
明日のニュースに飛び入り参加即決定間違いなしだ。
しかしまあそれは杞憂に過ぎず、ご都合主義っぽいこの能力のおかげか、特にこれ以上こじれることなく目的地にたどり着くことができた。
愛する我が家、俺と、久我さんの住まいである。
フラフラと二階への階段を上っていく。
カンカンと鉄骨階段を踏む音が響く。
雨で少し滑る。
チラリと後ろを見ると、赤くにじんだ道ができていた。
階段を上りきったところで、自宅の前に人影をみとめた。
柏原さんである。
仁王立ちである。
表情は陰になっていてよくわからないが、難しい顔をしているようだった。
「あ、のぅ・・・」
おずおずと声をかけた瞬間
「ッ!!」
パァンッ!!と乾いた音がして、左頬がジワリと熱を持った。
「へ・・・」
生理的な涙の膜ができる。
どうやら平手打ちを頂戴したらしい。
「お、おいかしは・・・」
そして久我さんが何かを訴えようとして
「ッ!!!!」
「うぐっ・・・」
言葉を言い終わる前に、腹に握りしめた拳を頂戴していた。
「かしはら、さん・・・」
「・・・か」
「え?」
小さい声だった。
いつもの明朗として、なおかつ優しく落ち着いた声ではなく、
蚊の鳴くような、今にも泣きだしそうな声だった。
「ばか・・・」
震える唇から紡がれた言葉は、涙とともににじんでいた。
「ばか・・・ばか・・・ばか、ばか、ばか・・・」
ポタリ、ポタリと涙をこぼしながら
「本当に、ばか・・・」
柏原さんは俺たちを見つめてそう言った。
「どうしてこんな危険な目に遭ってるの・・・何かあったら、俺・・・」
言葉だけでなく、身体ごと震わせながら。
「この血は、別に俺たちの血ってわけじゃなくて・・・」
「そんなのどうだっていい・・・返り血にせよ、そんなの浴びるような状態にあったって、そういうことでしょ・・・」
「う・・・」
返す言葉がない。
柏原さんの綺麗な目からはさっきよりも大粒の涙が流れている。
「ねえ・・・そんなに俺って頼りないかな・・・そんなに信頼できないかな・・・」
柏原さんが俺の手を握って言った。
手は震えていた。
「え、いやそういう・・・」
まあ、気まずくはあったけど。
「俺、悠介くんが隣に来た時からずっと、力になりたいと思ってたんだよ?困ってるときには手を貸したいし、必要なら肩も貸せるようなそんな信頼できる関係になりたいって、そう思ってきたんだよ・・・」
ぽつりぽつりと言葉を吐き出す。
弱音を吐くように。
泣き言を吐くように。
「悠介くんがいないと困るのは、久我さんだけじゃないんだよ・・・?」
欲されていた。
その言葉が俺のなかでグルグル回って、埋め尽くす。
変な気分だ。
決して不快ではないけど。
「ねえ、頼むから・・・約束して」
祈るように。
縋るように。
「一人で行かないで。一人で無茶しないで」
ポロリと。
こぼれる。
中から、内から、次々と、止めどなく。
「二人とも、俺の知らないところで傷付かないで」
気付けば俺も泣いていた。
もらい泣きとかそういうのじゃなくて、無意識のうちに。
内側から漏れだした感情。
色々キャパシティーをはるかにオーバーしていたから、処理できなくなった分が水分として出てきたらしい。
涙は血の赤い部分をこしとっただけで、ほとんど同じ成分らしい。
じゃあ涙を流すのは血を流すようなものなのかもしれない。
だからだろうか。
こんなに心が痛むのは。
「頼むよ・・・」
こんなに求められることが痛みを伴うなんて知らなかった。
そして、こんなにある意味幸せな痛みがあるなんて知らなかった。
「ごめん、なさい・・・」
俺の言葉は、震えていた。
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