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うーん、俺って残念な男なのかね?
俺の家のキッチンで小夜がご飯を作ってくれる姿を想像する。2人でダイニングテーブル(無いけど)に座って、向かいで「しょうゆ取って」なんて言いながら(無いけど)、「おかわり」ってお茶碗(無いけど)差し出して「はい」なんて白いご飯が(炊飯器無いけど)よそってくれて・・。
・・・くぅー!俺、毎日速攻で家帰るわ。
嬉しさに身もだえした。一度想像した幸せな光景が欲しいけど、いかんせん、何にも無い。まずは物理的に物を揃えないとどうにもならないのだ。
俺の生活力の無さが、ここで足を引っ張るとは・・・。
小夜の手を引いて寝室兼リビングにもどって、デザートをテーブルに置いた。嬉しそうにデザートの前にペタンと座って蓋を開け出した小夜は、可愛いの一言につきた。
思わずグッと引っ張って胡座をかいたおれの膝に座らせた。
「・・・あっ。」と言ったきり何も言わない小夜の様子を肩越しに見てみると真っ赤になって、モジモジとスプーンの袋を伸ばしたり縮めたりしていた。
・・・可愛い。
「食べようか。」
お腹に手を回して抱え直してと耳元で囁くと、小夜は一度小さく震えてから、ギクシャクとカップに手を伸ばした。
「美味しい?」
聞くと、スプーンを咥えたまま、こくこくと頷く。頭を撫でて、小夜の甘い香りを吸い込んだ。
「風見さんは食べないの?」
消え入りそうな声で聞かれた言葉に微笑んだ。
「食べさせて。」
ピシッと固まった小夜をみて、吹き出しそうになる。
硬直しちゃって、可愛い。唇が尖りだしたな?
考え事をしている小夜の癖は、破壊力抜群だ。顎捉えて上を向かせると、尖った唇にキスを落した。
「ちょうだい?」
真っ赤になった小夜は、カクカクと不自然な動きでチョコクリームをスプーンで掬うと、またカクカクと横を向く。
あ、固まった。
右手にスプーンを持っているのに、右側に身体を向けたから腕が上がらないのだ。固まった様子に笑いながら、ひょいと小夜の体を持ち上げて反対側に横抱きしてあげた。つまり俺の右腕は、小夜の頭を支えて左腕は足を支えたお姫様抱っこスタイルにしたのだ。
真っ赤になって見上げてくる様子が見れて、満足した。
「はい、あーん。」
何も言えず硬直した小夜が可愛すぎて吹き出しそうになりながら見下ろす。口を開けるしぐさをするとハッとした顔をしてスプーンを差し出された。
「・・・おいしい?」
「ん、美味い。」
ペロッと口についたクリームを舌で舐めとってから、膝の裏に回していた手を抜いて、頭を撫でる。サラサラの髪は触り心地が良く、ずっと触っても飽きない。
撫でられて落ち着いてきたのか、うっとりと目を細める姿に色気を感じつつ、グッとそれ以上は我慢した。
色々話をした。
俺が生活能力ゼロということは隠しても仕方ないから、笑いながら家事は無理なんだよ、と打ち明けた。
このマンションの間取りも玄関入ってすぐに扉があるところが気に入って借りた。繁忙期になると残業残業の毎日で、帰ってからのご飯はコンビニ飯とビールになる。それがシンクに積み上がるものだから、宅配業者が来た時に荒れ果てたキッチンを見られないように1つ間仕切りがあるこの部屋にしたのだ。
掃除はする、ルンバが。
お風呂はシャワーしか使わないけど、洗うためだけに浴室に行くのが嫌だから、基本はシャワー使った直後にザッとタイルをスポンジで洗って終了。このやり方で水垢やカビは発生してないから正解なはずだ。
キッチンは料理したことがないから綺麗だ。洗濯は洗濯機がやってくれるし、乾燥までかけたらすぐにハンガーにかければ皺にならない。生活能力ゼロでも、文明に頼ればどうにか生活できるものだ。
そんな生活の様子を聞いて、小夜はしばらく何か考え込んでいた。
「じゃあ、おれの家で、今度ご飯作ってあげるね。」
好きな子が、俺のためにご飯を作ってくれる。そんな最高に幸せなシチュエーションに、天にも登る気持ちってこういう事なんだと、幸せを噛みしめたのがさっきのこと。
そんな訳で、現在、俺はスーパーでカートを押している。
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