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ディレクターとマネージャー、澤田と俺。三笠商事への見積りの最終確認をするために、会議室に集合した。
「澤田さん、この件については担当を風見さん1人に変更となりました。よって、デスクに戻って自身の仕事に戻って下さい。」
マネージャーから澤田へ担当を下ろす旨が伝えられる。蒼白になった澤田は、ぎゅっと胸元の社員証を握りしめてから、立ち上がった。
「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げる。小島ディレクターがニッコリと笑って「席を外して。」と謝罪を受け入れない姿勢を見せた。
「始末書、顛末書(てんまつしょ)は要らないわ。今回の事をよく反省した上で、今後の活動に役立てなさい。その成績をもって、謝罪とみなします。」
心の中で、ぴゅーっと口笛を吹く思いだった。
結果的には(改修がどうなるかは、さておき)会社としては利益が出る(予定の)商談結果だ。万々歳とでも言うべき成績になる(予定だ)だが、上の思惑(おもわく)に背く事の重大さを教育する必要性を感じたのであろう。
バッサリと切っていく。
しかも、悔しかったら、成績上げて来い。と投げ捨てた。
現段階で損益(そんえき)を出していない以上、架空でしかない損益の始末書も顛末書も書く必要はないのだが、あえてその名称を出すあたり・・・
意地悪だなぁ。
「澤田さん、席に戻りなさい。」
マネージャーからも言われ、彼女は頭を下げてから会議室を出ていった。
担当云々は、平社員である俺の口を出す部分ではないが、この決定により三笠商事の案件は俺1人の成績になった。ふたりであったとしてもマイルストーン達成は確約されていたのに、1人の成績として付け替えられた結果、俺個人の年間目標を9月の段階で、ほぼ8割がた達成した事になる。
三笠以外でも、プレゼンの約束までこぎつけた新規開拓企業があるため、これがうまくいけば社長賞も夢ではない。
小夜という大切な恋人が出来て、今まで興味のなかった出世を気にするようになった。
なんとかマネージャー職へ上がり、ディレクターへと のし上がりたかった。肩にかかる責任は大きくなるが、小夜からいつまでも尊敬される男になりたかったのだ。
そのためには大事な、大事な案件だった。
「契約時にはマネージャーに同席頂きたいのですが、お時間はありますでしょうか。」
「今のところ先方の指定する時間は大丈夫だ。」
今回の三笠オリジナルの改修は、かなりの金を落とす。
通常の変更可能とする汎用部分を超えた改修となるため、リスクも多い。
ただ、やると決めた以上、軌道(きどう)に乗せてもらわなければならない。それをやるのは、開発、運用、保守のチームがそれぞれ連携し、他社製品とリレーションする部分は、他社と綿密に打ち合わせを行い、本番と同じ環境を社内で整えた上で、設計していく。
何度か大山の営業やSEとの打ち合わせが必要な、大掛かりの改修だ。
お互いの手の内を曝(さら)け出す必要もでてくるが、その開示の塩梅(あんばい)は俺の担当するところにはない。
大山会計には、もちろんテスト環境での落とし込み時に立ち会ってもらうこともだが、本番時には不測の事態にそなえて、数日間は三笠に缶詰になってもらう必要がある。
賽(さい)は投げられた。
あとはそれぞれの担当に任せ、俺は次の利益の出る会社を探し、契約を取ってくるのが仕事だ。
詳細を打ち合わせし、礼をして出て行く。
俺は次の新規開拓企業のプレゼン準備に取り掛かった。
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