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299 2018年9月26日
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満員電車で、風見さんの顎の下を眺めている。
いつも風見さんにぺったりと寄り添って、乗っていた。
この時間だけは、くっついていても誰にも変だと思われない奇跡の時間で、実はこの時間、すぐに終わっちゃうけど好きな時間だったりする。
正直、田舎から出てきた時、この押し合い圧し合いな電車に閉口した。
でも今はこの時間でさえ、デートだ。
そういえば、風見さん、昨日寝るのが遅かった。
先に寝ておいてと、キスをひとつしてキッチンでパソコン開いて仕事をしていた風見さん。
ベッドに入ってきたのは、かなり遅い時間のようだった。
忙しくなるって言ってたからな。
元気になれそうな献立を考えなきゃ。
・・・となると、お肉だよね。
「小夜、降りるよ。」
こそっと話しかけてきた風見さんに、うん、と返事をして電車を降りた。ここからは友だちの距離感で。
いつものように改札を抜け、いつもの場所で「いってらっしゃい。」を言う。
お互いに「頑張ってね」と言って別れる毎日。
この幸せな日常がずっと続きますように。
おれはそう思いながら事務所へ向かった。
------------※ ※ ※------------
今日は水曜。
ノー残業デー。
昨日、エドワードにメールしたが、その反応も確認したい。家に帰ったらチェックをしなければ。
そんな事を考えながら会社のエレベーターに乗ると、澤田が駆け込んできた。
「おはようございます。」
挨拶を返して、階数ランプを見つめた。
「リーダー、私、成績不良でマネージャーに呼び出されてしまって。もう一度勉強したいので、ペア活動に戻してもらえないかとお願いしたんですけど、ダメでした。」
それはそうだろう。
プロジェクトチームに入ることが決まっている俺に、澤田の子守りは出来ない。その上の判断は、正解だ。
「アプローチの仕方は色々あるから、マネージャーにロープレ見てもらったらどうだ?」
「出来れば、リーダーに見ていただきたいんです。」
成績不良が続くと部署異動になる。
子会社に転籍するよりもずっと良いだろう。転籍した上で数字を残せない人は要らない。
「澤田、申し訳ないんだが、色々案件が立て込んでいる。俺は無理だから別の人にお願いしてくれ。」
「リーダー・・・。」
悲しそうな顔で見上げてきても、どうしようもないのだ。
本体に残れば、なんらかの部署異動で済む。
子会社は営業部隊だ。営業を支える少人数の事務部隊が俺たちを支える。営業は仕事を次々と得るために、インセンティブで充分に生活が潤う給与体系になるだろう。逆に成績不振であれば、基本給しかもらえない。
粗利の何パーセントをインセンティブとして落とし込むか。そのあたりの道筋を決めていくのも、プロジェクトチームに入った面々の仕事でもある。
経営側と俺たちの戦いだ。
「ほら、降りるよ。」
エレベーターから振り向きもせずに降りた。
俺は知らなかったよ。
結構、いや、俺はかなり一途らしい。
俺の気持ちは、小夜にしか無い。
そして小夜も俺に心を全力で向けてくれている。
「おはようございます。」
挨拶をしながらデスクへ向かう。
風見は、自然と力強い歩きになっていた。
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