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夜会や舞踏会に武器の持ち込みはしないのが普通だけど、オレ達正騎士だけは腰に帯剣することが許される。
いつも仕事で使うのとは別の、宝石とか色々ついてる飾り剣ではあるけど、使い勝手はともかく切れ味は一緒だし、丸腰よりは安心できた。
白い騎士礼装に剣を帯び、会場の大広間をぐるっと見回す。
正直こういう社交は苦手だから、あまり目立ちたくないし、できれば誰とも話したくない。
フロアを回ってる給仕から適当にワイングラスを受け取って、すれ違う人に適当に挨拶しつつ、隅の方に移動する。
「やあ、お1人ですか?」
「お父様にはいつもお世話に……」
と、いろんな人に挨拶されるけど、気の利いた返事どころか、戸惑いつつ「はあ」としか応えられないし。ホントに苦手だ。
いつも控室で待ってくれてたアンバー君も、もういない。
「苦手でも頑張れよ」って、言ってくれる声もない。ただ出席する義務を果たすだけのパーティは、何も面白くなくてげんなりした。
料理が美味しいのだけは救いだけど、こういう場で食べてばっかいて許される程子供じゃない。
結局、目立たない程度に軽く食べつつ軽く飲んで、隅っこでぼうっと立ってるしかできなかった。
やがてフロアがざわざわと騒がしくなり、「新王陛下おなり!」って侍従か誰かの声が響いた。
みんなが一斉にドアを振り向き、注目する。
オレも同じく注目してると、華やかに着飾った陛下の斜め後ろに、同じく着飾ったアンバー君がいて、ドキッとした。
思わず1歩踏み出したけど、結局それ以上動けなくて、グラス片手に立ち竦む。
陛下もアンバー君も、ドレスを着た女の人をエスコートしてて。彼女達を腕に掴まらせたまま、会場の上座、玉座のある方に堂々と向かった。
あれは誰だろう?
陛下は独身だし、早急にお妃を……って話は確かに聞いてた。縁談がいっぱいあるって話も聞いてた。アンバー君にも来てる、って。
だから彼女たちは、その縁談の相手かも知れない。それか戴冠式に招待されてた、周辺諸国の関係者かも?
フロア中がざわざわとざわめく。「あれは誰だ?」って声があちこちに上がる。そんな中、玉座の前に立った陛下が「鎮まれ!」って声を上げた。
「皆に紹介しよう。戴冠式にわざわざお越しくださった、海洋王国の王女殿下と、そのイトコ姫だ」
海洋王国は、我が国の南にある海を挟んだ隣国だ。今までそれほど国交もなくて、王族の顔を見たのも初めてなくらいだったけど、これからは違うんだろうか。
陛下の紹介に合わせ、2人の姫君がドレスをつまんで優雅に可愛くおじぎをする。
わあ、と上がる歓声。一斉に湧き起こる拍手。
陛下の合図で音楽が鳴り始め、ダンスに備えてフロアの真ん中からざーっと人が引いて行く。
再び壇上から陛下が降りて――アンバー君も降りて。エスコートしてた姫君と向かい合い、優雅に上手に踊り始めた。
アンバー君が踊るの、初めて見た。
ご両親が事業に失敗し、没落する前は、デビュー前の学生だったし。卒業してからはオレの元でずっと仕事ばっかしてくれてて、ダンスなんかには無縁だった。
ブランクがあるとは思えないくらい、優雅でキレイな足さばき。
オレみたいに足元を気にする様子もなく、しっかり顔を上げて余裕の笑みを浮かべてる。
練習、したのかな? 誰と?
トモダチの晴れ舞台なのに、おめでとうって気分になれなくて、そんな自分がイヤになる。
一瞬、目が合ったような気がしたけど、オレはとてもそれ以上見てらんなくて、そっとフロアを立ち去った。
各国から集まった使者の方々は、みんな王城に客間を貰って、しばらく滞在するんだって。当然あの姫君たちもいる訳で、2人1組で城内を巡回してる時、その姿をまた見かけた。
きゃっきゃと笑う声を聞いてビクッと目を向けると、陛下やアンバー君と一緒に、城の庭園で談笑してた。
キレイに整備された植え込みの間を、ゆっくり散歩する姫君たち。
「へえ、お似合いじゃん」
一緒に巡回してた騎士が、ぼそりと呟く。オレはそれに返事ができず、穏やかなその光景を直視することもできなかった。
胸が痛い。呼吸が乱れる。
安全確認のための巡回なんだから、あちこちに視線を向けないと意味がない。でも庭園の方を見たくない。こんなんじゃ騎士、失格だ。
ダメだ、と思った。
けど、今すぐ立ち去りたい時に限って、思いがけず邪魔されるものみたい。
「あ、ミーガン」
陛下の張りのある声に呼ばれ、合図するように手を軽く上げられれば、無視する訳にもいかなかった。
「……はっ」
返事と共に敬礼し、陛下の元に足早に向かう。
やや離れた場所で立ち止まり、ひざまずくと、「立て」って短く合図された。
「ミーガン、お前、昨日の夜会、早々に帰っただろう」
「それは……はい」
陛下からズバッと指摘され、さすがに気まずくて目を逸らす。まさか理由までは訊かれないだろうけど、じわじわ顔が熱くなった。
どうしてバレたかと思ったら、意外にも探されてたらしい。「話があったのに」って言われた。
「まあいい、勤務が終わったら部屋に来い」
「かしこまりました」
再び敬礼し、陛下に深々と礼をする。続いて姫君たちにも礼をすると、また一瞬、アンバー君と視線が合ったような気がした。
「あれじゃね? 側近に抜擢」
同僚の騎士にこそりと囁かれ、「まさか」と首を振る。
「けどそれ以外に、騎士が御前に直々に呼ばれることなんかないじゃん」
そう言われると反論はしにくいけど、オレなんかより優秀な騎士はいっぱいいるし。騎士団長から、打診も何もされてない。
仮に抜擢だったとしても、断るしかないかも。
オレ以外の誰かの横に立つ彼を、これ以上見たくない。陛下の側近に据えられるより、いっそ遠く離れた国境に転属した方がいいと思った。
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