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夏めく
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「なあ、アイス食べたくない?」
「あー…あり」
外では五月蝿いほどに蝉が喚いていて、吹き抜けるように真っ青な空からはギラギラと容赦ない光が街を照りつけている。
お茶でも飲もうと冷蔵庫を空けると彼がちらりとこちらを見遣った。
いる?と目線で伺ったが、ううん、いい、と返事が返ってきたので自分の分だけをコップにとぷとぷと注ぐ。
「買いに行かないとないんだよなぁ」
大学生になり彼とシェアハウスを始めたこの部屋は、外とはちがって程よく冷房が効いていて居心地がいい。
動きたくないのはお互い同じようで、ソファーに寝そべってスマホを弄る彼からはうーん、と曇った声が聞こえる。
「それはめんどいな」
「だよね」
「でも食べたい」
「俺も」
お互いに押し付けるような眼差しで見つめ合うのが可笑しくて、同時に小さく吹き出す。
まだお茶が残っているコップをテーブルに置き彼の方へ向かうと、片足の膝を立ててソファーに俺の座るスペースをつくってくれたので遠慮なく腰掛ける。
「どうしよ」
八の字に下がった眉と若干上目遣いの瞳、口には控えめな笑み。
彼はこの表情に弱い。
「くっそ、…あざといな」
「ぶりっ子したのばれた?」
「丸わかりだわ」
「でもこれに弱いよね」
「まぁな。かわいいし」
自分で聞いておきながら直球すぎる返答にどんな反応をしていいか分からなくなり、曖昧にはにかむ。
「なんだよ、自分から仕掛けといて」
面白そうに笑う彼は、こうなることまでも全部分かっていてああいうことを言う。
きっと、俺より彼の方が何枚も上手だ。出会った頃から。
「…っ、アイスは」
「ごめんって、拗ねんなよ」
「拗ねてないし」
それ以上言い返す暇もなく。
気づいた時には、ふわりと頭の後ろを支えられて口には彼の唇が触れていた。
優しすぎるそれは2回、3回と繰り返される。
「麦茶の味がする」
もう少し、と感じる手前で止められていかにも物足りなさそうな俺と反して、目の前の策士は楽しそうだ。
「一緒にコンビニ行こ」
「…」
火照る頬を振り切るように立ち上がって財布を取りに行く俺を見て、彼はまたひとつ笑い声を漏らした。
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