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【創作BL・R18含】『虹色月見草❖円環依存型ARC-ツキクサイロ篇 第一部』【虹色月見草/完結済】
第六話『 初めての恋 』 下
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「俺、自分はずっと美鶴の事どうしたいんだろうって考えてたんだけど、まず、独占したいわけじゃないんだなって気付いてさ。だから俺は、美鶴とは恋人なんかにはならなくてもいいんだ。そりゃ、美鶴と恋人同士になれたら嬉しいよ。でも、なれないからって落ち込んだりはしないし、美鶴の中で一番になりたいとも思ってない。それと、俺のことを恋愛的に好きになってくれとも思ってないんだ」
「……それってつまり、恋愛的に好きだけど友達のままでも満足できるって事?」
不安そうな表情のまま美鶴がそう尋ねると、瑞季は迷わずそれに頷いた。
美鶴はその事に戸惑いながら言った。
「それって、辛くないの……?」
すると瑞季はまたすぐに頷いて苦笑した。
「これってやっぱ変だよな。俺も自分で変だなって思うんだ。でも不思議と、本当に辛いと思わないんだ」
そんな上向きな言葉を聞くも、美鶴は未だ不安げな顔のまま言った。
「それって、実際にその辛さを感じてないからじゃなくて? だって俺、もんちゃんのことこの先もずっと恋愛的に好きになる事はないんだよ? それって好きな人が永遠に振り向いてくれないって事だよ? そんなのと一緒にいて、もんちゃんはしんどくないの?」
「うーん、そうだな……」
瑞季は頭を軽く掻きながらまた苦笑した。
「俺はお前に振り向いてもらえないとか、恋人になれないって事なんかより、美鶴と一緒にいられない事の方がしんどいんだよな」
「……一生友達のままでもいいから、一緒にいる方がいいって事?」
「うん、そう」
「……そう、なんだ」
美鶴はまた少し考え込むようにしてから言った。
「――うん、わかった」
「え?」
「俺、今、もんちゃんが言ってくれたこと、全部信じる」
「美鶴……」
瑞季が安堵したように美鶴の名を呼ぶと、美鶴は小さく息を吐くようにして笑み、続けた。
「でも、もしそれが嘘だったとしても、どっちにしても俺は恋人にはなれないから。それだけは、頭に置いておいてほしい、かな」
「あぁ、わかった。――信じてくれてありがとな」
「ううん。その、気持ちに応えられなくて、本当にごめん。それと俺、やっぱりもんちゃんにはちゃんと恋愛できる人を好きになってほしいと思う。だから、もし今後好きな人ができたら、その時は俺のことは忘れて、その人と幸せになってね」
「え、あ~……お、おう」
「ふふ」
「な、なんだ?」
なんともいえないその返事に対し、美鶴がおかしそうに小さく笑ったので瑞季は動揺しつつも問い返した。
すると、美鶴は苦笑しながら答える。
「もんちゃん、ほんと嘘つけないよね。今の返事こそ頑張って取り繕わないと、俺、また不安になっちゃうでしょ」
「あっ、そ、そうか」
頭を掻きつつ失敗したといった表情の瑞季を見て、美鶴はまた穏やかに苦笑する。
「ほーんと、もったいないなぁ」
「何がだ?」
「もんちゃん、正直者で優しくてかっこいいのに、俺みたいの好きになっちゃってさ……ちゃんと恋できる人に恋してよ」
「そう言われてもなぁ……好きになっちゃったんだからしょうがないだろ。それにそんな事言うなら、美鶴こそもうちょっとその魅力減らしておいてくれよ」
少し不満げにそう言った瑞季に対し、美鶴はまたおかしそうに笑った。
「ふふ、何それ。俺はいつだって素だったもん。魅力アピールなんてしてないよ?」
「知ってる。でも俺は、その“素”に堕ちたの」
「もぉ~、もんちゃんてばチョロ屋さんなんだから」
「なんだチョロ屋さんて……」
「もんちゃんみたいに優しくて純粋な人の事かな~」
「それ、一応褒められてるんだよな……」
「え? 全然?」
「えぇっ」
相変わらずリアクションが優秀な瑞季に笑い、すっかりいつもの元気を取り戻した様子の美鶴は、ひとつ申し訳なさそうに続けた。
「――なんてね。言ってるでしょ、俺には勿体ないよって。でも、それなのに気持ちに応えてあげられなくて、ごめんね」
「あぁ、もうそれはいいんだって。つか、美鶴はもう謝らないでくれよ。俺はこうして美鶴いられるだけで満足してんだから。それに、俺こそごめん。考えなしに勝手に色々言って、誤解させて……」
「ううん、もう大丈夫だよ。それに、俺だって好きだって言ってもらえるのは素直に嬉しかったから。だからそう思ってくれることは、本当にありがとう」
「ん、こちらこそ」
瑞季がそう言って穏やかに微笑むと、美鶴もまたそれに応えるように笑顔を返した。
そうして二人はその後、少し遅めの夕食を済ませた。
瑞季はその晩もまた、美鶴と肩を並べ、笑顔の彼を見ながら食事ができる事の幸せを改めて感じた。
そしてふと、今朝の自分はこの幸せを壊そうとしていたのかと考え、酷く恐ろしくなった。もしもあの時、本当に美鶴に嫌われてしまっていたら、こうして笑い合って過ごす時間は永遠になくなっていたのだろう。
だが、今回は無事にそうならずに済み、またこうして笑い合う事ができている。
瑞季はそれを、何よりも幸せだと思った。
たとえ恋人などにならなくても、こうして笑い合い、言葉を交わし、共に過ごすことができるのだ。――ならば自分は、美鶴を独占できるような選択肢より、こうして美鶴が心置きなく笑顔を向けてくれる方の選択肢を選びたい。瑞季は心からそう思った。
そして、その日の晩はお互いに少しだけ早めにベッドに入り、眠りにつくまでの時間を穏やかに過ごしていた。
そんな中、瑞季はふと思い至った事を美鶴に尋ねてみた。
「なぁ美鶴。もし、嫌だったら教えてくれなくてもいいんだけどさ」
「うん? なぁに?」
「美鶴はさ、その中学の時の事が原因で、この先自分を好きになった人にも将来嫌われるのが怖いから、恋人とか恋愛はもうこりごりって思ってるんだよな」
「うん、大体そんな感じかな。でも今は何より、親しい人と恋人関係に発展するっていう方が嫌かも」
「親しい人と?」
ベッドでうつぶせるようにして向かい合っていた二人だったが、その状態で瑞季は首をかしげてみせた。それに対し、美鶴は考えるようにしながら言葉を紡ぐ。
「そう。親しいって言っても、流石に家族とそうなる事はないから、例えば仲良くしてる友達とか、そういう家族以外の大切な人と恋人関係になるのが嫌って感じかな」
「それは、どうして?」
「なんだろ、恋人関係ってさ、結婚とかしない限りはいずれは終わっちゃうことが多いでしょ?」
「うん」
「でも友達のままなら終わりは来ない。ただ、一度恋人になっちゃったら終わりは一生ついてまわる。しかも、終わった後は友達に戻れないことがほとんどだし、知り合いにとどまるならまだしも、最悪嫌われたりするでしょ」
「……確かに、そうなる事もあるな」
「うん――だから俺、大切な人とは恋人関係にはなりたくないんだ。そういう人に嫌われるなんて耐えられないもん」
そんな美鶴の言葉を受け、瑞季もまた心の中で頷いた。
「俺はそんなに強い人間じゃないから、大切な人との終わりなんて考えたくないし、大切な人とはずっと一緒にいたい――だから、そういう人たちとはずっと友達のままがいいんだ……」
「そうか……そういう事でもあったんだな」
瑞季はその美鶴の言葉を呑み込むなり、改めて腑に落ちたような感覚を覚えた。
「うん。本当にこれは俺のワガママだけど――だからこそ俺は、もんちゃんとも友達のままでいたいんだ」
「……そっか……それなら俺も――ん? でもそれって」
「ん?」
「あ、いや……なんでもない。その、美鶴の思ってる事知れてよかった。ありがとな」
「ううん、こちらこそ。聞いてくれてありがと」
そう言った美鶴はニコリと微笑んだ。そして、それからまた少し話したところで美鶴が静かにあくびをした。
「――そろそろ寝るか」
「うん」
美鶴の様子を受け、時間を確認した瑞季はそう提案した。すると、美鶴はそれにゆったりと頷いた。
瑞季はそんな美鶴を愛おしく思いながらも、就寝の挨拶を告げる。
「おやすみ」
「うん、おやすみ、もんちゃん」
美鶴はそう言った後、そのままゆっくりと眠りに落ちて行った。
瑞季はそんな美鶴の呼吸音を耳にしながら、少しだけ思考を巡らせていた。瑞季の脳内では、先ほど交わした美鶴との会話が思い起こされている。
――だからこそ俺は、もんちゃんとも友達のままでいたいんだ
美鶴は先ほど、大切な人々とはずっと一緒に居続けたいからこそ、そういった人々と恋愛関係に発展したくないと言っていた。そして、瑞季ともそうでありたいから、友達のままが良いとも言っていた。
つまりそれは、美鶴が瑞季を“大切な人”としているという事なのだろうか。
瑞季は先ほどからその考えが頭の中を巡っており、やや落ち着けずにいた。彼がすぐに寝付けなかったのもそのせいだ。
実はこのところ、あまりにも失態を繰り返してしまった為、瑞季の株は美鶴の中で酷く落ちてしまっただろうと思っていたのだ。
だが、美鶴の言葉をそのまま受け取ってよいのならば、少なくとも瑞季は美鶴にとって親しい友人であるという位置に置いてもらえているという事になる。
その日、瑞季が美鶴に告げた言葉は全て本心からなるものだ。
美鶴と一緒にいる事ができるなら、恋人になってくれなくとも、自分を恋愛的に好きになってくれなくとも構わない。ただただ美鶴のそばにいられて、美鶴の笑顔を見ていられるのならそれだけで満足できる。
瑞季はただひたすらにそう思うのだ。
ただそれは、恋をしている人間が思うような事ではないのだろうという事もまた、瑞季はなんとなく思っていた。
だが本気でそう思っているのだから仕方がない。恐らくこれが、本気で恋をしてしまった瑞季の、恋愛の形なのだ。たとえ自分のものにならなくても、そばで笑ってくれているなら構わないと思えるほどに、美鶴は瑞季の心を強く射止めてしまったのだ。
それはまさに、瑞季にとって初めての本気の恋だった。
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