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□『こいにおちたら』/あとがき。
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□良介side
長い夏休みが終わり、また退屈な毎日の始まり。
爽やかな朝だと言うのに気だるげな教室の中でも一層憂鬱な顔をしているであろう…俺、大葉良介は窓際の一番後ろの席に座りぼんやりと窓の外を眺めていた。
「…だる。」
朝からその言葉ばかりを繰り返している。
気が乗らないし学校なんてつまらない。
何か面白い事はないものか…そんな風に毎日思っていた。
ガラッ!
教室のドアが勢い良く開き我が担任の今年二十五歳を迎えた体育会系男・三越将人先生が現れた。
「オラオラー!席に着きやがれー!」
みんなが席に着くと挨拶もそこそこに。
「転校生を紹介するぞ。入ってくれ!」
そう言った三越の合図と同時にドアが開き教室に入ってきたのは…。
背は…そんなに高くなく中肉中背って所か?
整った顔立ちにサラサラした茶髪…の男。
「芹沢太一です!」
元気良く名乗りペコリと頭を下げてから上げしなに人なつっこそうな笑顔で笑った。
「芹沢はお父さんの仕事の都合でアメリカから帰って来たばかりなんで…みんな色々教えてやってくれな?」
アメリカ?
漢字じゃない聞きなれない地名に教室がざわめく。
「大葉!」
突然呼ばれてビックリしつつ取りあえず右手を上げた。
「アイツがこのクラスの副委員で…春日部!」
「はい。」
廊下側の一番前の席で春日部が手を上げた。
「で、こっちがクラス委員長の春日部だ。」
三越は春日部と俺を持っていたボールペンで順に差しながら芹沢に説明する。
「春日部弘樹です。」
小柄な春日部が『芹沢太一』に向かって頭を下げて。
「芹沢太一です!よろしく!」
ヤツは俺達を交互に見ながら茶髪の頭を下げた。
「んで…大葉。」
三越がまたもや俺にボールペンを向けて。
「芹沢の世話してやってくれ。」
「…は?俺がですか?」
「春日部はクラス委員で忙しいからな。」
あご髭を生やした三越の口元がニヤつく。
いや…俺も一応副委員長ですがね?
…かったるいけど仕方ないか。
「芹沢の席はアイツの横だ。悪いが久遠…お前空いてる席に移動してくれ!」
俺の隣の久遠がニヤつきながら机の中の荷物を引き出し、通り際小声で『ご愁傷さん』と言い廊下側の空いてる席に移動していった。
そしてすぐに新たなお隣りさんがやって来て…。
「よろしく!」
ニッコリと笑った。
◇◆◇◆◇◆◇
半日ほど一緒に過ごし、昼になる頃には俺と芹沢はすっかり馴染んでいた。
弁当を持って来ていないヤツを連れて一階に来てる購買部のパン屋まで行く。
「うわ…。」
俺の横で芹沢が絶句する。
そりゃそうだ。
購買部の前には…パンを買う為に並ぶ我が校の男子共がウジャウジャ。
そこをかき分けて最前列まで行かないと、この生存競争を勝ち残れないからな。
不安気に芹沢が俺の顔を見上げた。
「勉強がてら行ってきな?」
意を決したのか、芹沢はその群れの中に飛び込んで行った。
「勇気あるな…。」
呟く俺の隣りで気配がして…朝までお隣りさんだった久遠が横に並んだ。
「相変わらずイイ男だな…お前の兄貴は。」
ちょっと頬を赤らめて言う。
この購買パン屋で俺の兄貴がバイトしている。
背がスラリと高く、俺とはジャンルの違うどこか洋風の顔立ちで…赤いフレームの眼鏡が良く似合う。
髪はサラサラで肩程のストレートを後ろで一つに束ねている。
あのパンを買うヤローの中にも、兄貴狙いの奴等はかなり居ると思う。
だってここ、花?の男子校だし。
「告ればいいじゃん?」
サラリと言う俺に、久遠が少し驚いた顔をする。
「実の兄貴に彼氏が出来るかもしれないんだぞ?弟として平気なの?」
ごく自然な疑問だろうが丸一学期間をこの半寮制男子校で過ごしてれば…男子同士のそんな話も耳にするし、現場に出くわした事だってもあるから…今更。
「慣れ、かな。」
「…ふぅん…。」
…すると。
人垣の中から髪をボサボサに乱した芹沢がパンを抱えて這い出して来た。
「おぉ!スゲェ!」
大人しい久遠が珍しく声を上げ、俺もかなり驚いた。
あの戦場からこれだけの成果を抱えて無事に帰って来れたんだから…あっぱれだ。
「たっ…ただ今…。」
芹沢のあまりのボロボロさに俺達は声を上げて笑った。
「笑い過ぎだよー!」
ご機嫌を損ねた芹沢が眉を寄せて怒り俺は笑いを堪えながらヤツの乱れた髪を指先で直してやる。
「…しかし良くこんなに買えたな?」
戦利品をチェックしながら久遠が呟く。
「パン屋のお兄さんがみんなで食べなってくれたんだよ!」
芹沢の髪を直す俺の指が止まり久遠もまた息を飲んだ。
アイツ…何でこの距離で俺達が分かったんだ?
思わず顔を見合わせた。
◇◆◇◆◇◆◇
「このパン美味しい!」
目をキラキラさせてチョココロネにかじり付く芹沢を横目で見ながら俺はピザパンを頬張った。
あれから俺達は教室に戻ってきて窓際で揃って昼食をとっている。
購買パン屋から戻ってきてから黙ったままの久遠をチラと見る…と。
「俺…告るよ…。」
ボソッと呟いたヤツが手にしていたナポリタンパンにかじりついた。
「えっ??」
口をモゴモゴさせながら芹沢が俺と久遠とを互い違いに見る。
「いいんじゃね?セッティングはしてやるよ。」
「悪いな…良ちゃん。」
「キショイからよせ。」
そんな会話してる俺達の間で芹沢はひたすらキョロキョロしていて…俺は携帯を取り出し兄・拓真にメールを打った。
「ヤツ、夕方には家にいるって。時間は?」
「学校終わったら俺はいつでもいい。」
その旨入力して…送信。
複雑な思いのままピザパンを食べ終えペットボトルの残りのお茶を一気飲みした。
「なに?なに?何の話???」
机に身を乗りだし芹沢が大きな瞳をキラキラさせて聞いてくる。
「ん?俺と良介が…兄弟になるかもって話だよ。」
「えぇぇっ!?」
頭上に"?"マークをたくさん浮かべた芹沢が俺の顔を覗き込んだ。
「テキトー抜かすな。」
アハハッと笑い席を立った久遠が後ろ手を振り教室を出て行った。
今はきっと…ドキドキのピークなんだろうな。
アイツ…久遠とは入学した時からつるんでいるからそのくらいは分かる。
兄貴と親友…しかも男同士。
俺の立場は微妙なのだけど…やっぱり俺は、親友である久遠を応援してやりたい。
そう…思った。
◇◆◇◆◇◆◇
腹も満たされたので芹沢を連れて昼休憩の残り時間に校内を軽く案内している。
「さっきの話ってさ?」
横を歩く芹沢が話を切り出す。
俺より少し背の低いコイツは俺を見上げる形になる。
「お前もこだわるね?」
「…大葉と…久遠の事だもん知りたいよ。」
気の強そうな瞳でジッと見つめられ…溜め息をひとつ吐いて廊下の壁に寄り掛かると、そのまま視線を窓の外に移した。
「…久遠は俺の兄貴に片思い中なんだ。」
「お…お兄さん???」
目を見開き極々一般的な反応を示す芹沢をチラと見て、憎たらしい程の青空に目をやる。
「初めて会った瞬間に恋に落ちたらしい。」
「そう…なんだ?」
「それで今日、学校が終わったらついに告白…と言う訳だ。」
ウンウンと頷き、何かを思い付いたらしい芹沢が目を輝かせた。
「俺達に出来る事…」
「無いよ。」
飛び出した芹沢の声をすぐさま押さえ付ける。
「本人同士の話だからさ…兄貴と親友が心配だけど俺はノータッチと決めたんだ。」
そう言い隣りのヤツに視線を向ければ…芹沢は黙って俺をジッと見上げていた。
いぶかしみ首を傾げると急に頬を赤くしてソッポを向く。
「…分かった?」
「はい。分かった…けどひとつ大葉に質問してもいい?」
「なに?」
聞き返した俺の前で芹沢が何度か口を開き…何かを言いかけた。
…すると。
「大葉はいわゆる…ノーマルなの?」
…出てきた質問にカクンと力が抜ける。
「…ノーマルだよ。」
「もし…男に告白されたりとかしたら…どうする?」
「…された事ないから分からないな。」
ふうん…とだけ言い、壁から離れると芹沢はズンズン先を歩いて行く。
突然の行動に驚きつつも俺はその後を追った。
「何だ…急に?」
「ううん…考え事。そろそろ休憩時間終わり?」
「そうだな…戻るか。」
突き当たりの階段を下り一階に戻って俺達の教室を目指す。
ふ…と目を向けた外があまりにも天気が良くてつい急ぐ足が止まった。
「…大葉?」
「真っ直ぐ行ったら教室だから。教科書は俺の鞄に入ってるから使ってくれ。」
「え…ちょっと大葉?」
じゃ、と手を振り今来た道を戻って教職員用の出口に向かう。
天気のイイ日は体育館の裏手に広がる芝生で日向ぼっこをするのが俺の楽しみなんだ。
見た感じ今日は久々の当たり日のようだし。
空をあおぎ大きな銀杏の木の下にゴロンと横になれば…草の匂いが鼻をかすめまぶたに下りる初秋の日差しがほんのり暖かくて気持ち良くて。
ふ…と人の気配に気付き目を開いた。
「ここは…大葉の隠れ家なの?」
いつの間にか隣りに芹沢が座っていた。
「芹沢…?」
「勉強よりこっちの方が楽しそうだから…きちゃった!」
屈託なく笑い空を見上げる目の前に掌をかざして芹沢がキレイに笑った。
ニコニコしている芹沢を見つめて…トクン、と胸が音を立てた。
なんだろう?
今…一瞬鼓動が速くなったような?
胸に掌を当ててみても別に普通だ。
「…どうしたの?」
芹沢がこちらを向いて不思議そうに首を傾げた。
するとまた…。
ドクン。
…と大きく鳴る。
もしかして…これは?
恐る恐る右手を伸ばし芹沢の腕に触れてみる…と…胸の鼓動が一段と速くなった。
「どうしたの…大葉?」
急に腕に触れた俺をいぶかしんだのか、芹沢が眉を寄せた。
「すまない。ちょっと触ってみたかったんだ。」
素直に告げた言葉に芹沢の顔がボッと赤くなる。
そして…腕を掴む俺の手の甲に自分の掌を重ねてきて。
「イヤじゃないから…もっと触っていいよ?」
胸がドキドキしてたまらない。
しかしなんだ…この展開は?
これはもしかして…もしかしたら、恋とかって気持ちなのだろうか?
多分…初めての感情。
俺の頭の中が突然の事にショートし始めたその時…。
「大葉…?」
俺を呼ぶ声に意識を戻すとすぐ目の前に芹沢の顔があって…。
「久遠の"一目ボレ"って気持ち…俺には良く分かるよ?」
芹沢の形の良い唇が言葉通りに動き俺の唇に重ねられて…すぐに離れる。
名残惜しくて…その腕を掴み、引き寄せて俺からキスをした。
重ねた唇は柔らかく俺はただただ…その感触に酔っていた。
ゆっくりとその華奢な身体を離すと…さっきよりももっと顔を赤くした芹沢が恥ずかしそうに俯く。
その仕草が可愛くて…芝生から体を起こしキツく抱き締めた。
「…大葉…痛いよ…。」
動揺したような声に何も応えずただ黙って抱き締めて…そしてたどり着いた一つの結論。
「芹沢…。」
「…はい?」
腕の中の芹沢を見下ろしその淡い茶色い瞳を真っ直ぐ見つめて。
「さっき…俺ノーマルって言ったけど、撤回するよ。」
俺を見上げる芹沢が小さく笑った。
「何…大葉?俺に惚れちゃったの?」
真っ赤な顔でそんな可愛くない事を言う芹沢は…とてもキレイでやはり可愛い。
…だから。
「…そうみたいだ。」
恥ずかしいがそれを隠せる自信なんてないしそうしても仕方がない。
…しかし。
俺に告白をさせたくせに自分は返事すらしないなんて。
ジッ…と見つめれば真っ赤に染まった耳を必死に隠しながら俺の胸に顔を埋めている芹沢がいて…。
不覚にもその姿に胸がキュンとしてしまった。
「芹沢?お前の返事はどうなの?」
ストレートに聞いてみても…まだ黙っている。
まったく…ずるいヤツだな。
「答えないなら…俺の事を嫌いだってインプットするぞ?」
「えっ!?」
慌てて顔を上げた芹沢を更にジッ見つめる。
そして…やっと観念したらしく、それでもソッポを向いて。
「俺…大葉の事…好きだよ。」
そう、小さく呟いた。
思っているよりも実際に聞く言葉はたまらなく愛しい。
嬉しくて身体が熱くなって…腕の中の芹沢を強く強く抱き締めた。
‐END‐
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
あとがき。
この「こいにおちたら」は、私がサイトを開いて初めて書いたお話です。
最初は…ご存じの方もいらっしゃるかもですがι
大葉クンは受でしたι
と言うか、ホントはこちらが原案なのですが…打っているうちに私の意思を無視して、拓真が突っ走り…ιアセアセι
サイトを移動した事もあり、カップリングを当初の形に戻しました!
でも拓真の良介命は変わりませんけど(笑)
このお話を読んで下さり、尚且、この「あとがき」までお読みいただき、ありがとうございました!
よろしかったら感想などいただけましたら幸せです☆
by.えりな
●加筆修正 2008.7.4
→再up 2013.5.16
再々up 2015.9.19
∞
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