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△智side
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突然の出来事のショックから立ち直れてないのに…。
『久遠くん?さっきのお客さんから忘れ物があるって電話があったよ。』
原チャリまで戻った時、持たされた携帯に店長からの着信が入った。
…忘れ物?
身の回りの物を確認してもそれらしき物は……。
「…納品、書…?」
…行かないわけには、イカナイ。
重い足取りで逃走コースを戻り、また【榎木】と表札のかかる部屋の前に立った。
ピンポーン。
チャイムを押しても…全然反応がない。
さっきはムチャクチャ早かったのに。
もう一度鳴らす。
するとずいぶんと間を開けてドアが開いた。
「…あの。」
見上げた顔は…
さっきとは違い頬が赤く腫れ上がり唇の端が切れてるみたいで…?
俺の視線に気付いたのかこの部屋の主はその頬に手を添えて。
「あぁ、ウチの猫だよ。……ちょっと凶暴でね。」
と苦笑いをした。
…どう見ても殴られてるよな?
なんて思っていたらまた腕を掴まれて。
「忘れ物…取りにきたんだろ?」
目の前でヒラヒラとされている紙。
俺が取りに来た…納品書、だ。
「サインもしといたよ。」
それを取ろうと手を伸ばし指先が紙に触れる寸前…。
「あっ!」
男の指先が部屋の中にその紙を放った。
「…入んなよ。」
ドアがグッと外側に開かれる。
俺は…どうしても中に入る事が出来ずにただ呆然と立ち尽くした。
「…入んないの?」
声を掛けられ悔しくて唇を噛む。
そして…掴まれたままの腕を振りほどくとニヤ付くコイツを見上げながら。
「どけ!」
と言いズカズカと部屋の中に入り込んだ。
モチロン土足で。
すると案の定、背後でまたしてもドアが閉められ……
俺は、覚悟を決めた。
「…気持ち良くしてやるよ?」
後ろから抱き付いてきたヤツの手を払い、正面を向いて。
「俺のコト抱けるのは、拓真だけだっ!」
言うより早く足を振り上げた。
「ぐ、ぇ…っ…」
倒れ込むソイツを横目に足元の納品書を引っ掴んで重いドアを力一杯開けて走り出す。
ゴメンな、榎木サン。
俺は春日部直伝の急所蹴りをヤツの股間にくらわせた。
おそらく…しばらく身動きできないだろうなくらい思い切り。
ちょっと可哀想だったかな…って思いつつ、
まぁ…自業自得って事で、ね。
◇◆◇◆◇◆◇
重い体を引きずり…
やっとの思いで自宅マンションにたどり着いた。
エントランスでエレベーター待ちながら溜め息を吐く。
あれから…
必死に逃げ帰ったのはピザ屋を出てから一時間後。
店長サンにはこっぴどく怒られ更には【榎木サン】からの俺の配達指定でのピザの注文が三十分置きに入るわで………人生初のバイトは散々な結果に終わった。
…はぁ。
玄関の前で溜め息を吐いてドアを開ける。
「ただいま。」
部屋の中は薄暗く、拓真がいないのは一目瞭然。
「…拓真…?」
なんだか心細くなって…シンと静まり反る部屋に向かい呼び掛けてみた。
「…どこ行っちゃったんだよ?」
部屋を進み電気も点けずにベッドに倒れ込む。
すると同時に携帯がポケットの中で震え出した。
「拓真!?」
急いで取り出し…未登録先からの着信にガッカリする。
そしていつまでも切れないその着信を受けた。
「…ハイ?」
『あぁやっと出てくれた!良かった!こんばんは!』
受話器から歯切れの良い声がする。
『あ、ごめんね!こちら、駅ビルの中の【ジーンズマニア】です!』
【ジーンズマニア】
ピザ屋と同じ日にバイトの面接を受けに行った、春日部お気に入りのジーンズショップだ。
「あ、こんばんは。」
『遅くにごめんね!もうバイトは決まっちゃったかな?』
「………クビになりました。」
『わぉ!それはラッキー!じゃあ良かったら明日からウチに来てもらえないかな?』
電話の声の主はかなりテンションが高く聞きながら芹沢の顔を思い浮かべる。
「明日ですか?」
『そ、明日!大丈夫?』
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
と礼を言うと。
『急でごめんね!じゃあ明日、店で待ってます!ちなみに僕は千秋奏多って言います!』
最後までテンション高いままに電話が切れた。
ふぅ…。
枕に顔を埋め、鼻先を掠める拓真の匂いにドキッとする。
「…まだ怒ってんのかな…。」
いつもならここには拓真がいて…笑って怒って…抱き締めてくれるのに。
久々に感じる淋しさ。
玄関に視線を移し…
それでも開かないドアを、ただジッと見てた。
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