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始まりの話 5
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桜が世界に淡い桃色をチラつかせる春、俺は校門の前で合格発表日の受験生のごとく緊張していた。
玄関口でプリントが配られている。
きっとそこにクラス表が載っている。
なんとなく足を踏み出す勇気が出ずにその場でうろうろしていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「優?立ち止まってどしたの?」
「あーいや、別に。ていうか久しぶり、陸。」
「うん。久しぶり。」
ふわっと微笑んだ二週間ぶりに見るその整った顔は、何故かいつもに増してキラキラオーラを放っているように見えた。
春の光を受けて、綺麗で、眩しい。
「じゃあ行こっか。クラスどうなってるかなあ」
「う、うん」
いい加減に逃げ場も無くなって、釣られるように足を踏み出す。
一歩一歩受付に近づくたびに、バクンバクンと心臓の音が不快なほどに大きくなった。
「おはようございます〜、このプリントを一枚取って体育館に行ってください〜」
「は、はい!」
変な汗で湿った手でプリントを手に取ると、意を決して視線を落とした。
1組……には無い。
2組……も違う。
3組………
隣で見ていた陸と同じタイミングで勢いよく顔を上げて指を指し合う。
「「3組!!!」」
同じ!!同じクラスだ…!
今年も陸の近くにいれる…!
やったやったとハイタッチして喜びを分かち合う。
体の奥からぶわっと熱が上がってきて、顔が火照って少しだけ泣きそうだ。
「今年もよろしくー!!」
「うわあっ!?」
感極まって思わず陸の胸に飛びつくと、陸は不意を突かれて一瞬よろけたもののすぐに踏ん張って受け止めてくれた。
俺よりも頭一つ分高いそいつの胸板に思いっきり頭突きしてしまってから、いやいや喜んで抱きつくとか女子かよ、と自分の突飛な行動に急に恥ずかしくなって急いで離れようとする。
しかし、俺が身を引くのより一瞬早く、あいつの腕が伸びてきて俺を抱きしめ返した。
「りっ…」
「こちらこそ、よろしく」
耳元から注ぎ込まれた少し掠れた柔らかい声。
ふわっと届くこいつ自身の匂い。
背中にまわる力強い腕。
頬を微かに擽る髪。
何か色々いっぱいいっぱいになって思わずバッと顔を上げると、至近距離で優しく微笑む蜂蜜色の瞳と目があった。
「また優太と一緒で嬉しい」
「う……あ、……」
ニッコリと花が咲いたような笑顔に、バクリ、と心臓が聞いたこともないような音を立てた。
頭に血が上って、思考回路が纏まらない。
…駄目だ、なんか、やばいーー
「……っ、う、あ……奥義!縄抜けの術ーー!!!!」
「ぐあっっ!!!」
とにかく解放されたくて全力で暴れると、ゴチンという音とともに頭頂部が何かにぶつかり目の前に星が飛んだ。
緩んだ腕から抜け出して目を擦ると、目の前で陸は顎を抑えて蹲っていた。
「わ、わりぃ、えと、その、尿意!!」
「は?」
「きゅ、急激な尿意!!大ピンチ!!俺トイレ!!先行ってて!」
「え、ちょ、」
ぽかんとしている陸に背を向けて、俺は全速力でその場から逃げ出した。
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