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俺たちの始まり〜修二〜
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繋いだ手を強く握りしめる。
今までのように、手を引かれて歩くばかりじゃなく。
今度は僕がその手を強く握り締めて…
歩いて行かなきゃ…
その歩調がどんなにゆっくりでも…
育んでるものが見えなくても…
僕たちの気持ちは確かにその卵の中で鼓動を大きくしているから…
努力してきたことが、やっと、形になろうとしている。
それが、1枚の紙に姿を変える。
僕の机の上にあった1枚の紙。
華南の持ってきた、僕ら3人が住むかもしれない部屋の間取り図を、見つけ、兄貴が手に取って眺めた。
奏一「…まだ、一緒に住むつもりなんだな」
独り言のように、でも、僕ちゃんにはしっかり聞こえてる。
修二「住むよ」
奏一「まだ付き合ってんだな」
修二「付き合ってるよ」
奏一「引き返すなら、同棲する前の今がラストチャンスだぞ」
修二「僕のラストチャンスは終わりました」
奏一「ふーん、管理人いるのか…、なかなか良さそうじゃん」
間取り図を見ながらブツブツ言ってる。
兄貴は、三人暮らしを許可した後も時々探りを入れてくる。むつが深夜勤務だから、僕ちゃんが泊まりに行かなくなって会う回数が減ったのを気にしてくれてるみたい。
確かに、会う回数が劇的に減った。
それに、会うのも、自分から動かないと会えない。今までは、流れに身を任せてたんだって、むつと華南が一生懸命動いてたんだって痛感する。
大学生活がスタートしたばかりの時は、どうなっていくのか不安だった。むつの職場にも華南の職場にも、普通に女の人がいる。
大学生活の中にも女の子がいっぱいいて、皆可愛い。
別に、側に女の人がいるから常に不安なんじゃなくて、実感するんだ。
僕らは男子校を卒業したんだなって…。
あの狭い空間にいた時は、感じなかったものを、世の中に出て感じるようになった。
女性の存在とか、世間の目とか…
全部分かってた事だけど…
華南が提案してくれた物件は、とっても良い条件の物件だった。
僕らの、見えない未来への道しるべみたいで、凄く頼もしい。
実物を見学に行く日。
華南は仕事で、夕方、そのマンションで待ち合わせ。僕は地図を片手に直接マンションに向かう。
一度も降りたことない駅に降り立つと、駅周りは賑やかな商店街だった。
八百屋とか魚屋とかお肉屋さんとか、昔ながらのお店が並び、遅くまでやってる大型スーパーもあって、とても便利そう。
商店街を抜けると、閑静な住宅街に華南が言ってた坂道があるけど、ずっとって訳じゃないし大丈夫そう。
あっ、あのマンションかな?
地図の指すマンションを覗くと、華南の勤める業者の車が止まってた。
華南「修二!こっち!」
修二「あっ、華南と…、初めまして」
竜也「初めまして、能登竜也です」
そこには、華南の先輩が一緒にいた。
修二「小日向修二です。今日はありがとうございます」
華南「さっ、竜さん揃ったから」
竜也「あれ?彼女は?」
華南「だから、俺は修二ともう一人の男とシェアするんだって」
竜也「ふーん、まぁいっか」
陽気に笑う竜也さん、それに苦笑いする華南が、口パクで僕ちゃんに謝ってる。
竜也さんはいい人そうで、僕は別になんとも思わない、普通の反応だと思うし、詮索しない竜也さんに悪い印象はない。
大家さんから鍵を借りて部屋に向かう。歩きながら至近距離で竜也さんが僕ちゃんをまじまじと見た。
竜也「橘よりイケメンだね、大学じゃ、よりどりみどりじゃない?」
華南「ちょっ、竜也さん!」
竜也「なんだよ、友達を褒めてるんじゃんか」
豪快に笑う竜也さんは、気さくに話しかけてくれただけ。気を使ってくれてる華南に微笑んで、僕は笑って答えた。
修二「そんな事ないですよ、僕の大学陸上有名なんで、カッコイイ人いっぱい居ますし。それに、僕、付き合ってる人いるんで」
竜也「おっ、青春してるね〜」
陽気な竜也さんは、到着した部屋の鍵を開けながら「俺もそんな時代があったなぁ〜」とか言ってる。
竜也さんが鍵に気を取られてる間に、華南がボソッと呟く。
華南「カッコイイ人がいっぱい…ね…」
修二「ッ!」
言われてちょっと焦った。
ここでツッコンで来るなよって、僕が華南を肘でこずいたら、華南は「イテっ」って脇腹を押さえた。
竜也「さぁどうぞ。って、どうした橘」
振り返った竜也さんが華南が脇腹を押さえてるのを見て首をかしげる。
華南はハハッと笑って誤魔化してる。
華南「…な、何でもないっす」
竜也「まぁ、いいや。入って、床と壁は橘が綺麗にやるからさ」
部屋は、床も壁も傷だらけだったけど、間取りも広いし、各部屋に収納があり、オープンキッチンは綺麗で、南向きの窓は広く、布団も干せて洗濯物も早く乾きそうだった。
竜也「着目点が主婦だね」
修二「あっ、僕が主に家事やるんで」
竜也「ああ、見るからに橘よりしっかりしてそうだもんね」
華南「竜さん…」
竜也さんはハハッと笑いながら、色々説明し部屋を見せてくれた、床や壁のサンプルも見せてくれ、部屋の雰囲気がイメージしやすいようにしてくれて、とても親切だった。
一通り見終わって外に出ると、竜也さんが小声で話しかけてきた。
竜也「修二君って橘の彼女のこと知ってるよね?」
華南が戸締りしてる間に、竜也さんが僕ちゃんの肩を抱いてコソッと耳打ちしてくる。
僕ちゃんがなんて答えようか考えてたら、彼はさらに続けた。
竜也「彼女って可愛い?橘の奴スゲぇ可愛いってやたらデレデレしててさ…」
え?
可愛いってデレデレ?…
華南「竜さん!戸締り終わりました」
竜也さんが僕ちゃんの肩に手を回してるのを見て飛んできた華南が、竜也さんの手をペチンと叩いた。
華南「何すか、耳打ちなんかして。俺たちここに決めますから大家さんとこ行くんで修二を離して下さい!」
竜也「ハハッ、分かったよ。ちょこっと彼女のこと聞いただけだよ、あんまり隠すからきになっちまってさぁー」
ケラケラ笑う竜也さんを華南がジトっと睨み、竜也さんはさらにゲラゲラ笑った。
竜也「分かった分かった、もう友達には聞かないよ。お詫びに、お前直帰でいいから。今度彼女見せろよぉ〜」
帰って行く竜也さんの背中に「全然反省してないじゃないですか」って華南が言うと、竜也さんは笑いながら車に乗り込み、帰っていった。
華南「修二マジごめん、竜さんが…」
項垂れて謝る華南。
でも、僕ちゃんは全然気にしてない。
あんなの普通の恋愛トークだ。
修二「面白い先輩だね」
僕ちゃんがフォローのつもりで言ったのに、華南は声のトーンが落ちた。
華南「…修二」
修二「ん?」
華南「………口説かれたら断われよ」
修二「…だから口説かれないって!」
ノーマルの人間がそうそう男に惚れるわけないのに、華南はこないだから何言っちゃってんだ…。
華南もやっぱ、仕事が大変で疲れてるんだな…。
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