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矢田という男
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百目鬼「矢田、今の道曲がるんだぞ」
矢田「あっ…す、すいやせん」
百目鬼「先方に渡す菓子折り買ってきたか?」
矢田「はい、そこの紙袋がそおっす!」
百目鬼「…矢田、これまさか芋羊羹か?」
矢田「はい!言われた通り芋羊羹買いました!」
百目鬼「馬鹿野郎!芋羊羹以外で買ってこいっつったんだよ!」
矢田「あっ、すいやせん!」
俺は何をやっても上手くいかない。
そのせいで仕事もすぐにクビになって、ちょっと柄の悪い連中の所でなんとか仕事をもらっていたが、荷運びの荷を無くしてボコられてたところを百目鬼さんに拾われた。
百目鬼さんは、顔は怖いし口調も荒い、でも本当は心の優しい人。俺は拾ってもらい、怪我の手当てもしてもらい、仕事が無いと言った俺を雇ってくれた。
だから、俺は、この人に恩を返したいとずっと思ってる。
杏子「矢田さん、こちらのメモ、誰からの電話内容か書いてないのですが、誰からの電話でしたか?」
矢田「あっ、…えっと…」
杏子「…。男の人でした?」
矢田「は、はい!」
杏子「分かりました、次から気をつけてくださいね」
杏子(あんず)さんは凄く仕事の出来る女性。俺のミスもニッコリ処理してくれる。
檸檬「矢田ちゃんまたミスったの?百目鬼さんにまた雷くらうぜ〜」
彼は檸檬(れもん)君。杏子さんの弟で明るく何でも出来る器用な子。
俺がここに拾われた時、2人はもう働いてたから、俺の先輩だ。
俺も役に立つように頑張りたいけど、間抜けな俺は、恩を返すどころか、百目鬼さんの面倒を増やしてばかりいる。
俺が、早く恩を返したいと焦るようになったのには理由がある。
百目鬼さんは、ここ数ヶ月ほど元気が無い。
だから、何かしたくど、俺のやることは裏目に出る。
矢田「あっ、捨て猫…」
雨の中、濡れた段ボールの中に子猫が1匹。
助けてやりたいのは山々だが、今までも散々拾って百目鬼さんと杏子さんに怒られている。今までは百目鬼さんがなんとか里親を見つけてくれたが、もう動物は拾わないと約束していたばっかり。
でも、あのつぶらな瞳……
濡れて震えてる…
悲しそう……
百目鬼「おい、矢田」
矢田「は、はい」
百目鬼「その腕の中の物体はなんだ」
矢田「す、すいやせん、雨に濡れてたんで雨宿りを…」
百目鬼「お前は仕事もろくすっぽ出来ねぇ癖に金にならねぇもんばかり拾って来やがって!どんだけ使えねぇんだ!」
矢田「す、すいやせん!」
百目鬼「聞き飽きた!いい加減にしろ!ってか事務所が濡れる!さっさと上の俺の部屋でシャワー浴びてこい!」
矢田「はっはい!」
百目鬼「言っとくけど床に爪立てさせたら、お前の給料から引くからな!」
ほら、優しい。
捨ててこいなんて言わない。
今その猫は、百目鬼さんが飼ってる。
この猫も百目鬼さんの良さが分かるみたいで、百目鬼さんに懐いた。
口ではめんどくせぇって言ってるけど、1週間経った今。すでに買い置きの餌とオモチャと揃ってるあたり、百目鬼さんもあの猫を気に入ったみたいで、俺はますます百目鬼さんについて行こうって思った。
これで早く百目鬼さんに奥さんができれば、百目鬼さんも幸せになるんだろうけど。
菫ママ「え?百目鬼の奥さん候補?」
矢田が常連で訪れてるココは、菫(すみれ)ママの経営するオカマスナック。
菫ママは、ゴツイ大柄な体に厚化粧で、野太い声だけど、矢田はママを女性だと思っている。というか、オカマを認識していない。
もちろん店で働く子も綺麗とは言い難い面々だが、矢田は女性だと信じていた。
矢田「ここの皆さんは、とても優しくて器量の言い方ばっかりじゃないですか、だから百目鬼さんのお嫁さんにと思いまして」
矢田は、間抜けな上に、口も軽い。だから、彼、1人だけ、百目鬼がゲイだと知らなかった。
菫ママ「あー…、あいつなら大丈夫よ、最近デートしてる子居るみたいだし(男だけど)」
矢田「そうなんすか!?俺、百目鬼さんの恋愛って全く知らないんすけど…」
菫ママ「(矢田ちゃん私らにとっては女性扱いしてくれる天使だけど、お節介で口が軽いのがたまにキズよね)
心配ないわよ、百目鬼はめちゃくちゃ一途ですっぽんみたいにかじりついたら離れなくらい執着しちゃうんだから♪浮気はないし、仕事出来るし、そのうち売れるわよ。
(まぁだから逃げられちゃうんだけど)」
矢田「そうなんすか…、百目鬼さん、ずっと元気なかったから、早くその方と幸せになって欲しいっす」
俺に、何か出来ないかな?
百目鬼さん、仕事ばかりで休まないし、器量良しの奥さんに休ませてもらって欲しいな…
こうして今日も百目鬼を心底心配する矢田は、数日後、すべての始まりの引き金を引く。
矢田「よし、その方と百目鬼さんがくっつくように、俺もお手伝いしよう!」
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