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番外編39ひと夜咲く純白の花の願い
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僕は、駅前に来ていた。
女装したまま、ボディーバックを背負って。
キーホルダーを無くした場所で、丁度お尻の高さの花壇ブロックに座り、行き交う人を眺めていた。
待ち合わせたカップルが仲良く手をつないでその場を離れるのを、ただぼーっと見て羨ましく思う。
百目鬼さんに迷惑だと言われ、喉の奥が締め付けられるように痛くなった。耐えられず、へらへら笑ってかわし、散歩だと出てきた。百目鬼さんは後ろから声をかけてくれたけど、今度こそ本気で僕を突き放すつもりだったんだろう、今までみたいに僕の腕を掴んだりはしなかった。
やはり賢史さんから何か聞いたんだろうか?
しばらく駅前でぼーっとしてて、また行き交う人を眺める。そして、ふと、間抜けな事に気が付いた。
頭を冷やそうとか思って出てきたけど、家に帰るって言えば良かったんだ。
頭を冷やしたら、また百目鬼さんの所に帰ろうとか当たり前に考えてた自分に可笑しくなった。
百目鬼さんには後で電話すればいっか…。
百目鬼さんの所には洋服くらいしか置いてないし。
夕方の街は太陽が沈み暗くなり始めていた。
昼間は暖かかったから、上着を持ってなくても平気だったが、今はもう無いと厳しい。
上着を持たずに出てきたのを後悔して、ブルッと身震いした。
寒ッ。上着どっかで買っていこう。
そんでこのまま電車乗って帰ろう……
電車…?あっ!…傘!しまった、修二たちの傘が百目鬼さんの自宅の玄関に置きっぱなしだ…。
あー、玄関なら、気付かれないで取って来れるかな…。百目鬼さんに会っちゃったら、ハッキリ帰るって言えなさそう……
あっ…、僕、迷惑だって言われたんだった。
帰らなきゃ…迷惑なんだった。
ふふ、動揺してやんの……
今朝まで百目鬼さんと触れ合った体を抱きしめる。
百目鬼さんは優しい…百目鬼さんは、ちゃんと断った、迫る僕に冷たくしなかった。諦めるのを待っててくれてたんだ、僕の心の整理がつくのを…待ってくれてた。でも、僕は、諦めるどころか………優しさに漬け込んだ。
修二、僕、ちゃんと振られてきたよ…。
想像より、甘い痛みに胸が締め付けられる。
あの日と同じ、あの人の温もりを感じながら、僕は百目鬼さんに囚われて、焦がれて、痛みに耐える。
想像通りの結末。
でも今回はちゃんと告白した。
振られて悲しい気持ちはあるけど、告白してすっきりした。この気持ちはいつかちゃんと消えて無くなる。
あの人の時もちゃんと消えた…。
もう、百目鬼さんと両思いの夢は…見たくないな…
「よぉ、マキちゃん」
低い憎しみ混じりのその声音に、背筋が冷えた。
マキ「けん…し…さん…」
賢史「神の家から出てきたから、来てくれるのかと思ったけど、違ったんだな…」
ブロックに座る僕を見下すように近づいてきて、2メートルくらい手前で止まる。
賢史「ラ○センのキーホルダーは要らないのかい?」
マキ「…。持ってるなら見せて下さいよ」
賢史「見せたら取られちゃうかもしれないからな、車に置いてきたぜ」
ハッタリだ…。アレだけ探してなかったんだ。この人が持ってるわけない。
賢史「嘘だと思ってんだろ?まぁ、俺があんたでも、嘘だと思うわな。矢田が必死に探してやがったから、俺も探してやったんだよ。まぁ、幾ら探しても出てくるわけ無い。盗まれてたんだから…」
マキ「盗む?キーホルダーを?」
賢史「クリスマス後にこの近くのツリーの撤去作業中飾りが幾つか盗まれてるのが分かってな、まぁ、犯人はカラスだったんだけど」
カラス…。そういえば、カラスは光物を集めるって聞いたことある。
賢史「他に悪さが報告されてて、間もなく新年だし、カラスの巣を撤去したんだよ。そしたら出るわ出るわ、ツリーの飾りやら、商店街で盗難届けの出てた物からなにから」
マキ「…」
胡散臭さを感じながら、期待感が拭え無い。
カラスの巣が撤去されたのは事実だ。
バリケード張って作業していたのを、チラッと見かけた。
賢史「俺とデートするなら返してやるぜ」
デート…。そんな殺気立ったデートって一体何が目的?
でも、百目鬼さんに振られた今、僕には、そのキーホルダーしか残ってない。
マキ「…僕、もう百目鬼事務所から出て行きますから、安心してください」
賢史「なら丁度いい。お家まで送ってやるよ」
マキ「電車で帰りますから、お気遣いなく♪」
賢史「後ろめたいことしてないなら、俺を避けることないだろ?」
マキ「そんなギラギラした目で言われても、信用できません♪。それに物を見るまではついて行く気はありません」
賢史「…ふーん」
僕がもっと簡単についてくるのだと思っていたのか、賢史さんは少し考えてから、思い出したかのように携帯を取り出した。
賢史「そうそう、写メに撮ったんだった」
操作音が響く中。僕の心臓はバクバクいってる。もし本当だったら、どうしよう…
返して欲しい返して欲しいけど、きっとタダで返してはもらえない。
賢史「ああ、これだ」
2メートル先から携帯画面を見せられ、僕はふらりと立ち上がる。
マキ「ッ!!」
近づいて見たそれは、カラスの巣に混在して埋もれかけた四角いラ○センのキーホルダーだった。
賢史「さぁ、どうする?」
マキ「…」
僕は、逆らうことができなかった…。
賢史さんがニヤリと笑い僕の肩を抱く。
人気の無い駐車場に移動し、ソワソワする僕を嘲笑った。
賢史「そんな警戒するなよ」
マキ「…」
賢史さんが運転席から何かを取り出し、右手に握り込む。僕の目の前まで来ると、両手を後ろに回してニヤリと笑った。
賢史「両手を出せよ」
マキ「…」
逆らうことが出来ず。両手を出して、キーホルダーを受け取るために掌を上に向けた。
ーガシャン!!
ギラッと光った手錠が両手首を捕えて拘束した瞬間、髪を掴まれ、無理やり後部座席に押し込まれた。
驚いた僕に賢史さんは馬乗りになって押さえつけ、大きな手ぬぐいが目の前を覆った。
賢史「大人しくしてろよ、そうすりゃ乱暴はしない。仲間を呼んだりしやがったら、たとえ相手が朱雀といえど全面戦争してやる」
マキ「朱雀!?なッ…ん¨ん¨ッ!」
タオルを咬まされて言葉を封じられて始めて理解した。賢史さんの戦ってる相手は、百目鬼さんの所属していた〝朱雀の元仲間〟だ。
賢史「何度も現れやがって、横から茶々入れんな、神を裁いていいのは、修二と奏一だけだ。忠告してやったのに、神にまとわり付きやがって覚悟しろよ」
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