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番外編57ひと夜咲く純白の花の願い
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ーピリリリリン♪ピリリリリン♪
携帯の着信音が響き、布団の中から手を伸ばしてゴソゴソと音のする方を探って携帯を掴む、開かない瞼のまま受話器をとった。
百目鬼「…は…い、ィツー」
声を出した途端、頭がズキンと痛んでこめかみを押さえる。ガンガンと響くような頭痛は二日酔いによるものだ。
すると百目鬼の情けない声を聞き、受話器の向こうの人物が鼻で笑った。
賢史『ハッ、昨日はお楽しみか?神』
寝起きの回らない頭と二日酔いの頭痛が、百目鬼を襲っていて、賢史の言ってる意味が理解できず聞き返す。
百目鬼「は?おたの…し…」
言いかけて。
自分の体に違和感を感じて片目を開けた。
目の前のにふわふわの猫っ毛が太陽の光に透けてキラキラしていた。
そっと掛け布団をめくると、自分の腕の中でマキが抱きつくようにして眠っていた。
百目鬼「!!………………………」
賢史『神。…おーい』
百目鬼「……ッ…かけ直す!」
ブツッと電話を切って、携帯を放り。
百目鬼は固まって頭の中を整理していた。
携帯が再び鳴っても、枕を被せて存在を無視する。
目の前に広がるのは、昨日何があったか一目瞭然の光景。汚れたシーツ。使い捨てられたゴム…。
マキと再会した初日の光景が頭をよぎり、嫌な汗が止まらない。
マキは、スーッと深く寝入ってるようで、ピクリとも動かない。
寝顔を覗くと、疲れた顔をしていて、顔にかかる髪をそっと耳にかけて初めて気がついた。
目元が腫れぼったい…。
百目鬼「……ッ……クソッ…」
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ーカタン…パタン…
物音に、マキはわずかに目を開ける。
半分寝てるのか、ただぼーっと目の前の百目鬼を眺めていた。
百目鬼「ん?…悪い、起こしたか?」
マキ「…」
バサリと背広を羽織った百目鬼が、半分寝ているマキの頭を優しく撫でる。
マキは気持ちよさそうに夢見心地に百目鬼の手に擦り寄る。まるで猫みたいだ。
百目鬼「午前中急用が出来た。午後車で送るから、寝てろ…」
〝うん〟と頷くように目を瞑り、またスーッと夢の世界に入っていくマキを、百目鬼は複雑な心境で見つめた。
百目鬼「…」
ーピリリリリン♪ピリリリリン♪
また催促の電話に眉をしかめて、ベッドで眠るマキから離れて、自宅から事務所へと下りていく間、電話で賢史と話しながら行方不明の孫の件が状況が悪くなったことを知り、合流する約束をして電話を切った。
そして、少し慌てて事務所のドアを開けた。
出勤時刻より早いのに全員揃っていて、事務所が機能しなかった分の仕事を各自がこなしていた。
百目鬼の登場に矢田と檸檬と杏子が「おはようございます」と声をそろえる。
百目鬼「檸檬体調は大丈夫か?」
檸檬「全然大丈夫っすよ!今日からバシバシ仕事こなしてくんで!」
百目鬼「ああ頼む」
檸檬の元気な声に安心して、自分のデスクに目を落とすと、書類が幾つか置いてあった。
書類に目を通そうとすると、横から矢田が心配そうに申し訳なさそうに声をかけてきた。
矢田「百目鬼さん〝大丈夫でしたか?〟」
言葉のニュアンスに引っかかりを覚えたが、普段より縮こまる矢田を見て、インフルエンザを移したことを気にしているのだと思い、大丈夫だ気にするなと肩を叩いた。
杏子「百目鬼さん」
杏子が百目鬼のデスクに来て、厚みのある茶封筒と、書類を一枚の百目鬼に差し出す。
杏子「頼まれていたものです」
百目鬼「ああ、悪かったな」
二つを手に取った百目鬼が、茶封筒の中身をチェックして一緒にあった書類に目を通しサインする。
そして書類を茶封筒に畳んで収め、封筒の表に書き込んだ。
〝マキ〟
と。
百目鬼は他の書類に目を通す。
矢田はその茶封筒を眺めた。
矢田「それ、マキさんにですか?」
百目鬼「ああちょっとな、帰る時渡すやつだ」
そう言って封筒を机の引き出しにしまった。
百目鬼「俺は午前中出かけるから、事務所は頼んだぞ」
矢田「お車回します!」
百目鬼「いい、賢史が来るから。お前には午後にマキを送る時に居て欲しいからな。電話番任せたぞ」
矢田「はい!」
ピッと背筋を伸ばして敬礼し、百目鬼を送り出す。
百目鬼は檸檬と杏子に〝矢田のお守りを頼む〟と目配せして、事務所を出た。
賢史「よぉ」
外には、車で迎えに来た意味深に笑う賢史がいた。賢史の言いたいことが分かる百目鬼は眉間にしわを寄せ、車に乗り込むなり煙草に火をつける。
賢史「野良猫は追い出したいんじゃなかったのか?」
百目鬼「ああ、追い出したかったさ…」
手遅れになる前に…
百目鬼の心の声は賢史にはお見通しで、呆れたように鼻で笑いながら、車を走らせた。
賢史「お前、あの野良猫どうすんだよ」
百目鬼「…どうもしない」
賢史「ふーん。『限界だから早く居なくなってくんねぇかな』とかお前が言うから、あの野良猫を追い出すの手伝ってやったのに、お前言ってることとやってる事がチグハグだぜ」
百目鬼「お前こそ、マキを気に入ったんじゃなかったのか」
賢史「ああ、今はマジに気に入ったね、あの嬢王様振りは驚きだ。修二以上だ」
百目鬼「…」
賢史「お前はあれだろ、修二みたいで気になっちまうんだろ?」
百目鬼「…修二とマキは似てるけど、似てない……」
賢史「ハッ、お前やっぱ馬鹿だな、同じ轍を踏んでるぜ」
百目鬼「……」
賢史「…はぁ…」
厳しい表情の百目鬼を、賢史は横眼で見て、呆れたような複雑な息を吐いた…
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