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番外編61ひと夜咲く純白の花の願い
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矢田『百目鬼さんがマキさんに〝お支払い〟する分だと言ってたっす…』
僕は…
好きだと伝えた…
側にいたいのもセックスするのも…
好きだから…と
目の前のお金に目眩がする…
昨日はいっぱい名前を呼んでくれて…
かわいいと言ってくれた…
強面の百目鬼さんがかわいいって言葉を口にすることの方が可愛い。酔った上での言葉だと分かっていたけど嬉しくて…
あなたと結ばれる事はなくても…
あなたにとって一夜の過ちでも…
その言葉は本物で…
どんな意味でも、好かれてるんだと…
甘い夢を見た…
夢の代償は払わなければならない…
あなたに後悔される?無視される?
どんな代償も払うと思っていたけれど…
これは…予想していなかった…
目の前の茶封筒が、死刑宣告状に見える。
好きだと言った相手から…
お金を渡されるなんて…
確かに僕は…教えてあげると言った
確かに僕は…とうに振られてる…
でもこれじゃあ…手切れ金だ…
2度と会いたくない、精算したいと言われたも同然。
どうして?
振られたのに好きでいた僕がいけないの?
側にいたいとここに残ったのがいけないの?
本当は叫びたい…
でも分かってる…
あなたは僕の告白に答えて振った…
それ以上の何にもならない…
あなたには責任はない…
分かってる…
分かってるんだ…
僕がどうこう言える立場じゃない…
…ッ。
……………………………帰らなきゃ…。
自然に足が動いて矢田さんの車に乗り込む。
矢田さんがバックミラーでチラチラ僕を見てるのが分かる。大丈夫。あと一時間も我慢すれば、何もかも終わる。
ぼーっと車窓を眺めていたら、赤信号なのに車のスピードが落ちない事に気がついて思わず大声が出た。
マキ「…矢田さん信号!」
矢田「へ!?」
ーキキーッ!!
車が急ブレーキをかけてガクンと揺れた。シートベルトのお陰で何ともなかったけど、真横を何かが飛んで足元に落ちた。
足元を覗くと、そこにあった物に目を見開く。だってそれはもう捨てられたと思ってた物。
百目鬼さんと行った水族館で、僕が買った
〝マダラトビエイのぬいぐるみ〟
な…ん…で?
似てるだけ?でも、似たものにしても、記憶の中のぬいぐるみそのものだ。
思わず矢田さんに尋ねると、『去年の夏からある』と言われた。
後部座席にあったの?ずっとあったの?
マキ「…ふふ、こんなとこ置いてたら、毎度落ちてくるだろうに…」
矢田「…」
マキ「ヌイグルミ…、こんなとこにあるなんて…ふふ…やっぱ飽きさせないなぁ…」
百目鬼さんの行動には驚かされてばっかりだ…。わかってる。僕が冷静になりきれなくて、百目鬼さんの行動を読みきれてない。
それに、ここにぬいぐるみがあったって、何か変わる訳じゃない…。
嬉しくて、悲しい。辛くて、痛い。
例えただ忘れたように置いてあるのだとしても、揺さぶられる。せっかく持ち直した気持ちが、全て台無しになってしまった。
ひび割れが広がり出す…
ふふっ…、もう…限界…
視界がぼやけてる。ぬいぐるみが見えない。
もう、何も見えない…もう、無理だ…
どうして、僕は過去の戒めを守れなかった…
こうなるって分かってた…
全部分かってたことだ…
生暖かいものが後から後から溢れる。
痛いぐらい胸を締め付けて
面白いぐらい溢れる…
ウケる…
これは自業自得の結末だ…
ふふ…
マジウケる…
声を押し殺し、ただ心の中の激情が過ぎ去るのを待つ事しかできない…
????????????????????????????????????
車が先生の家の前に止まるのろ。気持ちを立て直した。矢田さんがオロオロしてるのが目に入り、おかしくて笑いそうになった。
マキ「矢田さん、安心して。もう姿を見せたりしないから」
そう告げ、シートベルトを外し車から降りる。ニコッと笑って矢田に手を振った。
矢田「…、百目鬼さんに、電話を…」
マキ「あっ、そうだね♪」
僕はカバンから携帯を取り出し、矢田さんの目の前で、百目鬼さんに電話をかけた。百目鬼はすぐに出た。
百目鬼『もしもし?ちゃんと着いたのか?』
マキ「あは♪送迎なんて気を使って頂きありがとうございました♪」
へらっと笑ってお礼を言うと、電話の向こうで声のトーンが下がった。
百目鬼『おい…、なんだその喋り方』
マキ「あはは♪気まずいかと思って♪お家にはちゃんと着きましたから♪」
百目鬼『…マキ?』
…名前を呼ぶな。
百目鬼『…ッ昨日は悪かった…、今朝も急用で出なきゃならなくて…まだ手が空かない』
マキ「ふふ♪昨日はとても優秀な生徒さんでしたよ♪」
百目鬼『……なぁ、マキそのことだが…』
マキ「ああ…、茶封筒受け取ったよ♪あれ僕になんだよね?」
百目鬼『あ、ああ、少ないが世話になったからな…』
(ーーーーーーーーーーー)
ほんの少しだけ…
本当に少しだけ…本人の口から聞くまでは…そう思った
ガラガラと崩れていく…
要らない中身が全部ドロッと崩れ出る…
ふふ………………………………
やっぱ手切れ金だったんだね……
(タエロ)
百目鬼さんは…
(タエロ)
そんなことしない…
(デンワヲキレ)
心の隅で勝手にそう思ってた…
マキ「ふふっ♪大丈夫、昨日の事は無かった事にするよ。貴方は誰も傷つけない。貴方が相手を強く想った愛情の強さだけ、相手を大切に出来るから」
百目鬼『は?おい、それは…』
(タエロ…)
マキ「大丈夫。この話しはお終い。忘れよう」
百目鬼『ッ…、分かたった』
マキ「じゃあね♪」
百目鬼『………マキ』
ッだから!!!!!!ーーーーーーー
マキ「あー、そうだ。今日これから修二会うんだ♪貴方が話しがあるって言ってたって僕から上手く話してあげようか?」
僕の言葉に、百目鬼さんの声が苦々しく低くなる。
百目鬼『…余計なことすんな』
マキ「はーい♪ごめんごめん、じゃあ、僕いくから、バイバーイ♪」
言った瞬間、電話が切られた。
百目鬼さんを怒らせたいなら、修二ネタに限る。修二の名前だけで、彼の冷静さを欠き洞察力を鈍らせることが出来る。
危ないなぁ…、ちょっと感づかれてた…。
まぁ、だからなんだって話しだよね…。
ふふっ…。僕の様子をずっと見ていた矢田さんが、口をポカンと開けて唖然としている。
さて、こっちもかたずけるか。
マキ「矢田さん、見てて」
僕はそう言い、ツカツカと先生の家の中に入っていく。
矢田さんは、何が起こるのかと不安げだ。
庭の噴水の前で止まった僕は、携帯を取り出し、水の上にかざす。
ニコニコ矢田さんを見ながら、無言でその携帯を噴水の中に放った。
ーボチャン!
矢田「えっ!?」
携帯が水の中に沈んでいく。
矢田さんが驚いているけど、僕はニコニコしながら冷めた心でそれを眺めた。
矢田「あ…」
マキ「はい、お終い♪矢田さんお疲れ様。バイバイ♪」
そう言って、ニコニコ手を振ったマキは、家の中に入って行く。
矢田は戸惑って見ていることしかできない。
そうしている間に、
玄関の扉がゆっくり閉まっていき
〝バタン〟と閉ざされた。
マキ「……………ッ…」
ーブロロロロロォォ
矢田の乗った車が走り去る音で、ここにいるのは自分一人だけになった。最後の支え、人前で死んでも泣きたくないという意地が崩れ去った。
足元にボタボタ大粒の雫が落ちて弾ける
マキ「ッ……ふ……ふふッ、…ッ…くっ…」
堰を切ったように溢れ出す涙に、
すべての制御を失なわれ崩れ去った…
マキ「ッぅああぁああァアーー!!!!!」
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