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番外編66ひと夜咲く純白の花の願い
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ーピンポーン♪
夜10時過ぎ。玄関のチャイムの音に、檸檬がインターホンを覗くと、煙草を咥えてイラついている百目鬼の姿が映った。
檸檬「えぇ…、超怖いんですけど…」
ブツブツ怯えながら玄関を開けると、押し入るように百目鬼が侵入してきてドスの利いた声を放つ。
百目鬼「矢田は何処だ」
檸檬は心の中で、〝矢田ちゃんやらかしちゃったのかぁー〟とゴクリと唾を飲み込む。ちょっとした失敗やミスでは、百目鬼はこんな風には怒らない。
檸檬「部屋にいるよ」
明るく振る舞う檸檬に見向きもしない百目鬼は、矢田の部屋まで足早に行くと、ノックもなくドアを開けた。
ーバン!!
百目鬼「矢田!!」
矢田「はひ!!?」
すでに布団に横になってた矢田は、落雷に飛び起きた。
部屋の入り口に立つ百目鬼を一瞬見ただけで、百目鬼が不機嫌なのが分かってその場に正座した。
矢田「ど、ど、どうしました百目鬼さん」
百目鬼「お前、マキの身辺調査してたみたいだな」
矢田「ゲッ!?」
百目鬼「なんでそんなことしてやがった」
怯える矢田の前に、仁王立ちしながら、煙草をふかす百目鬼。
矢田は、バレてしまったと身を縮め、その様子を檸檬と杏子が廊下から隠れて見守る。
矢田「あ、あ、あいつは…、ど、百目鬼さんを騙してたんです…、だ、だ、だから、正体を暴こうと」
百目鬼「騙す?俺は騙されてなんかねぇよ」
矢田「…ッ…百目鬼さん!あいつは男で!女装して百目鬼さんを変な道に引きずり込もうとした奴なんす!!可愛い格好が趣味だとか言って、露出の多いい服で酔った百目鬼さんを騙して、百目鬼さんが好きだとか嘘ついてたんす!だ、騙されてたんです!あいつは誰とでもホ…ホテル行くような汚い奴なんすよ!!これが証拠ッス!!」
矢田が震える手で慌てたようにカバンから写真数枚を取り出し、百目鬼の前で正座して握りしめた写真を献上する。
矢田の手渡してきた写真は、車に乗ったマキと見知らぬ男がラブホテルから出てくるシーンだった。
!?
矢田「俺、我慢できなかったッス!こんな奴が百目鬼さんの側で寝泊まりするなんて!だから、追い出してやったんす!なのに戻ってきたりしたから、今度はこの写真突きつけて出てけって言ってやったんす!」
写真と矢田の話しから、百目鬼の中で妙に腑に落ちなかった部分がストンと落ちた。
そして、自分はマキの存在と、過去の修二への罪悪感からあらゆることを見落としていたことに気がついた。
マキは…、矢田や賢史から嫌がらせを受けていたという事実。そして、自分が男だと矢田にバレても、自らが女装趣味だと誤魔化していたこと…。百目鬼がゲイだということを隠し通すため、誤解を正すこともせずにいたこと。
百目鬼「…お前、賢史と一緒になってマキになんかしたのか?」
矢田「ぇえ!?な、なんでバレ…!はぅ」
言ってもいないのに賢史の名前が出てきたことに驚いた矢田は、うっかり白状してしまったことに口を塞いだが、もう遅い。
百目鬼「俺が必死にマキを探してたのにお前と賢史はマキの居場所を知ってたんだな」
矢田「そ、そんな、なんでそんなこと!」
百目鬼「コレだよ」
百目鬼が矢田に見せた1枚の写真には、ラブホテルの駐車場から目隠し用のカーテンを潜り、出ようとする車のボンネットが写り込んでる写真。
百目鬼「中の駐車場が見えない造りなのに、この車にマキが乗ってるって初めから分かってて写真を撮ってる。たまたま居合わせて撮った写真じゃない。それにこっちの写真には、わずかな反射が写ってる、ガラス越しからこの写真を撮ったことになる。このラブホテルの向かいにそんな場所はない、ってことは車で張ってて、車内から撮影したことになる。だが、あの日、お前は車を使ってなかった。使ってたのは賢史だ」
矢田がアワアワしてどんどん顔色が悪くなる。百目鬼の言っていることが正しいのだと、顔色が証明している。
百目鬼「となると、もともと車でこのラブホテルを張ってたことになる。そうなると、マキがこのラブホテルに入るのをお前は見てることになる。矢田、マキがラブホテルに入って行く時の写真はどうした、張り込みの基本は出入りの両方抑えるんだろ?」
矢田「お、俺は入って行くところは見てないっす…俺が見たのは、その車の男がラブホテルに入るところで…」
百目鬼「見てないなら、なぜマキが中にいると分かった」
矢田「そ、それは…」
百目鬼「賢史に言われたんだな?」
矢田「ぅぅ…」
百目鬼「俺や檸檬や杏子が必死にマキを探してる時、マキがこのラブホテルからに居ると賢史から聞いたんだな!!」
矢田「ひッ!!はい!その通りっす!」
百目鬼「俺たちが探してるのに、いつからマキがそこにいるって分かってた!」
矢田「え…えっと…ッ…あれは…」
矢田が死にそうな顔で携帯を取り出し、賢史からの通話記録を調べる。
矢田がマキの居場所を掴んだのは、百目鬼に賢史から〝マキらしい奴を見つけた〟と知らせを受ける2時間以上も前だった。
その時、百目鬼はふと嫌な予感がした。
マキはあの日、俺に「迷惑だ」と言われて傷つき飛び出した。3時間以上携帯が圏外で、見つけた時まだ、この街にいた。
檸檬にマキを発見した時の状況を聞いたが、車に乗ってる男は〝桜木〟といい、2人の話し方から知り合いだろうと檸檬が言っていた。
マキは俺に、〝惚れ薬で他の人に惚れてきた〟と言っていた。
俺に振られたマキがこの男を呼びつけ、ラブホテルに入り惚れ薬を試した?
でも、マキは、惚れ薬を使う時は手脚を縛って別の奴とセックスそないようにして欲しいと言っていた…。
マキの手首には拘束の跡があった。
ではなぜ、桜木とセックスしたのか?
桜木という奴が、惚れ薬で熱烈に口説いてくるマキに耐えられなくなって?
マキは、惚れ薬の効果を証明してもう一度俺のところに言いに来ようとはしてなかった。
むしろ、帰ると言い張ってた。
俺が酔って連れ帰らなければ、『惚れ薬でなく百目鬼さんのことが好き』とは言ってこなかっただろう…
だとしたら、証明する気もないのになぜ男を呼びつくて惚れ薬を試すなんてことしたんだ…?
…。何かがおかしい…。
………もし、自分の意志では無いとしたら?
百目鬼は、弾かれたように矢田の部屋から飛び出す。
向かったのは。
もちろん賢史の所。
賢史「ああ、やっぱバレた?」
普段と変わらぬ様子で返した賢史。
悪びれる様子の無い賢史の胸ぐらを百目鬼が掴むと、賢史は両手を広げて降参の意思表示。
賢史「マキちゃんがさ、朱雀の差し金だと思ってさ」
百目鬼「朱雀?それは無い、マキは朱雀と無関係だ。マキに何かしたのか?」
賢史は胸ぐらを掴まれながら、マキと修二のメールのやり取りを思い浮かべていたが、百目鬼は修二の名前が出ると冷静さを失うし、あまり良くない知らせなので黙っておくことにした。
賢史「なんで関係ないと言い切る」
百目鬼「お前こそ、どうしてそう思う」
賢史「んー、お前、マキちゃんのお色気にかなりヤラレてたろ」
百目鬼「ッ…」
賢史「マキちゃんは危険な棘のある花だ、1度掴んだらその棘に殺られるぜ?お前もそれが分かってたから遠ざけようとしたんだろ?俺が聞いた時、〝早く出てって欲しい〟って言ったろ?」
百目鬼「ッ…、あいつは…修二の友達だから、何か〝俺が〟やらかす前に家に帰したかっただけだ。賢史、マキになんかしたんだな」
賢史「…ああ。警告しても居座ったからな、お仕置きしといた。神がヤラレたことをやり返しただけだぜ。媚薬ぶっかけて裸にひんむいて、惚れ薬飲ませてベッドに縛って据え膳にして、別の奴に惚れさせた」
百目鬼(!!!!!!!!!!!!!!!!!)
賢史「まぁ結局、お前が連れ戻しちまったけどな」
百目鬼「…」
賢史「1年半前。修二が拉致られた事件が解決した後。お前随分荒れたな、だいぶ深酒したり、ろくな生活してなかった。あの時は修二への未練だと思った。だが、こないだお前がインフルエンザでぶっ倒れた時、お前、マキと玄関で言い争ってたろ?悪いが外で偶然聞いてた。見舞いに行ったんだよ。その時お前がマキに惚れ薬を飲まされたことを知った。お前が変に悩んで苦しそうにしてるのはマキの事だろ?」
百目鬼「ッ…」
賢史「お前はマキを受け入れる気が無い、なら、追い出すべきだ」
百目鬼「…………………………」
賢史「目を覚ませよ神」
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男「トム、マキちゃん遅くない?」
トム「あっ、そういえばそうだな、飲み過ぎかな?ちょっと見てくるわ」
カウンターの席から降りたトムは、ウォレットチェーンをジャラジャラいわせて、気分良く鼻歌を歌いながら、店内のトイレの扉を開けた。
トム「おーいマーキー……?」
中を覗いたが、誰もいない。
トム「あれ??帰っちゃったのかな?」
トムは首を傾げてドアを閉め、店内を見回す。
だが、
マキの姿は、すでにdawnの店内には無かった。
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賢史「…ぃ…ツー…」
床に倒れたいた賢史は、天井を見上げて横たわったまま、口の端に触れる。
少し触っただけでチクっと痛み、指先に血がついた。
賢史「あいつ本気で殴りやがって…」
呆れた声で言って、百目鬼の走り去ったドアを眺める。
賢史「ったく、閉めてけよさみぃ?んだからよー。あいつホントどうしようもねぇー馬鹿だな…。奏一の時も修二の時も…。
懲りねぇなぁ…〝どうするつもりも無い?〟〝早く出て行け?〟全く、本当に言ってることとやってる事が違いすぎるんだよ!ややこしい…」
賢史は寝そべったまま、背広から煙草を出して咥え火をつけた。
吸い込んだ煙が傷口に染みる…
煙をはきだしながら、百目鬼の事が気になって仕方ない。
その時ふっと、ある言葉を思い出した。
賢史「ああ…そういえば菫ママが、俺のやった事は〝逆効果〟だとか言ってたっけか?…フー……、フッ、どんだけだよ…」
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